表2-4-1には、説明変数の定義とそれらの平均値、標準偏差、範囲が、これら3つの移動タイプ別に示されている。本分析に使用する説明変数は、(1)転居時における6歳未満の子供の有無(妊娠中を含む)、(2)女性が現在収入のある仕事をしているか否か(就業・非就業)、(3)夫婦が持ち家に支払っている住宅ローンの有無、(4)転居理由、である。さらに転居理由は、(4a)育児環境、(4b)住宅事情、(4c)生活の利便性、(4d)夫および自分の仕事の4つに分けられる。
最初の2つの変数は、前節でも示したように、ともに保育サービスをはじめとする子育て支援政策への需要に影響を与える要因であり、もし「子育て環境」が江戸川区への(もしくは区内での)移動の要因となっているとすれば、これら2つの変数(小さな子どもをもつことと女性が就業しているか否か)は、統計的に有意な説明力をもつはずである。ここでは、両変数はともに二分化変数(dichotomous variable)であり、前者の(1)は、もし女性が6歳未満の子どもをもっていれば1、そうでなければ0となる。後者の(2)では、もし女性が現在収入のある仕事についていれば1、そうでなければ0となる。なお、この女性の就業については、就業者をさらにパートタイム就業とフルタイム就業に分けて、ダミー変数を作り分析したが、この2つの就業タイプに有意な差はみとめられなかったため、女性の就業は二分化変数とした。
表2-4-1に示されているように、6歳未満の小さな子どもをもつ女性の割合は平均で84%であり、なかでも江戸川区以外の東京・埼玉・千葉・神奈川からの移入者(「近距離移動者」)では92%と際立って高い。また、現在収入のある仕事に就いている者の割合(就業者割合)は、約3割で決して高いとはいえないが、移動距離とともに低下する傾向がある。
また、住宅ローンの有無は家計における収入の必要性を増すと考えられ、これが女性の就業と結びつくことで、江戸川区の提供する保育環境や同区の生活利便性への需要となることによって、移動タイプの説明要因になる可能性が考えられる。また一方、住宅ローンをもっていることは、転居に際して同区内に不動産を取得したことの近似値であり、それ自体移動の要因となりうる。このような理由によって、この変数をモデルに加えた。この変数もまた二分化変数であり、もし現在の住居が持ち家でそれに住宅ローンを払っていれば、変数の値は1、そうでなければ0となる。
表2-4-1からわかるように、転居後の住居が持ち家であり、それにローンを支払っている夫婦(女性)の割合は、全体平均で約2割(19%)である。しかし、移動タイプによって大きな格差があり、江戸川区内移動者の場合43%と高いが、遠距離移動者の場合はわずか3%にすぎない。