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だから今の芸術的なホールは、結構有名なアーティストや名のある人を選んできて芸術監督に据えますけど、芸術監督の職業はそうでなくて、見る目が勝負なわけです。アーティストは基本的には他人のものを見ないという基本性格があるんです。これは重要なことなんですが、本当にあまり見てはだめなんです。他人のものをどんどん見るというアーティストは意外といないと思います。やっぱりアーティストは嫉妬の固まりになる。他人のを見ると平気でいられないという部分がありまして、あまり心穏やかじゃないわけです。

ある程度の方法論がどうなのかという情報は知りたいけれども、具体的なものは見ない。これぐらい芸術監督に向かない人はいません。他人のものを見ないのが職業ですから、見る職業の芸術監督ができるはずがない。

俳優の学校がないとか、いろんな問題がありますけれども、最も根本的なものは恐らくそういう見る目が養うことができない。学校教育の中で鑑賞するとは何かというのを教えない。

例えば、写生しなさい、芝居しなさいということはやりますけど、つくったものをどういうふうに鑑賞するのかということについては教えません。国語の授業でいうと、芝居を見て、そのテーマは何ですか、作者の言いたいことは何ですかとだけ聞いてもしょうがない。それならば芝居なんかやる必要はないじゃないか。そのまま言えばいいじゃないか。しかし、そんなことでは芝居の本質はつかめないということです。

芝居というのは舞台の中で物語が展開されていくと皆さんお思いかもしれないです。芝居を見るからには、何か事件があって、いろんなことが起きて、物語が進んで、最後どうなるのだろうかというふうに今までは見てきたけれども、今の芝居はそんなこと全くない。物語はほとんど何も起きない。事件も起きない。そういう芝居が世界的に主流です。これは一体どうなっちゃったか。何にも起きない。

この前、東京国際舞台芸術フェスティバルで、フランスからイリーナ・ブルックという人を呼んだんですが、ある家庭の話で、その家庭は次の日には崩壊しているんだけれど、きょうの話なので何にも起きない。でもあしたには崩壊していますという話です。でも舞台ではあしたの話はやっていない。きょうをやっているわけです。舞台上はなにも起きない。

 

 

 

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