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そのコンディショナリティーの一つに一般売上税(GST)というのがありまして、これは小売り・サービス部門や、電気・石油料金に15%の売上げ税を適用しようとするもので、ビジネス界を中心に非常に強い反対があります。反対の理由は、経済危機で国内需要が落ち込んでいる状態に、15%の売上税を導入すれば、さらに需要が落ちてしまうではないかというのが表向きの理由です。裏の理由としては、一般売上税を課せられると、これまで内々で処理してきた売り上げというのが表に出てきてしまう。すなわち裏処理がやりにくくなり、課税の対象になる売上額が大きくなってしまうということで、ビジネス界、特に小売り業界から強い反対があったわけです。これが裏の理由というか、正直な理由らしいのです。

いずれにせよ、そのGST導入に反対する運動が非常に大きくなり、9月だけでも全国的な規模のものが毎週末ごとに行われ、ナワズとしても対応に苦慮していました。

それから貧困層の拡大について、述べさせていただきたいと思います。貧困層というのは確実に拡大しておりまして、イスラマバードのパキスタン開発経済研究所の調査によると、93年/94年度に人口の24%であった貧困の割合が、98年/99年度には33%に増加したと報告されています。貧困層は80年代に一度減少傾向にあったのですが、90年代文民政権以降、かなり増加の傾向となっています。この原因としては先ほど申しましたように、財政赤字削減による社会セクターへの資金カットが響いているものと考えられます。

その他の背景としては治安の悪化とか、言論統制というのがあります。治安悪化の原因は、アフガン侵攻以降、銃や麻薬などがパキスタン国内に流入するようになったこと、シーア派とスンニー派の宗教対立が激しくなったこと、あと民族間の対立激化によるものです。民族間の対立に関しては、ムハジール、インドからの移民と、その他の民族との間の暴力ざたが非常に増えている。95年以降民族対立による死者が4千人を超えている。そして98年だけで千人の死者がでたということです。カラチ周辺では特に治安の悪化が進んでいて、98年には、元カラチのシンド州の州知事であったサイド氏が殺されてしまった。これによって、政府がこれ以上の治安悪化を食い止めるために、非常事態宣言をして、シンド州を政府の直接管理下に置くことになったのです。

以上のように、クーデターが起こっても国民が軍に対して反論することもなく、受け入れているという背景には、こういったさまざまな問題点があったわけです。

 

 

 

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