そういったところから、政府内部でもかなり対ロ重視の基調が高まり、また、丹波さんが外務審議官に就任して対ロ協調路線を進め始めた。
端的な例が、97年7月に経済同友会で行われた橋本前首相の演説で打ち出された対ロ3原則です。これは、信頼、相互利益、長期的視点といった3つの原則を今後の対ロ関係の基調にしようといった提言です。これは、モスクワからみていて、かなりロシアの注目を集めました。この対ロ3原則というのは、日本がロシア関係をかなり重視した結果だと。おそらく日本外務省やモスクワの日本大使館などもかなり根回しをしたのでしょうが、これがマスコミにも大きく取り上げられて関心が高まった。
それから、北方領土周辺海域における日本漁船の安全操業協定。この協定は、大体2年弱交渉してようやく妥結したものですが、最大の意義は、北方4島周辺海域における管轄権を棚上げしたことです。その管轄権というのは主権と直接リンクするのですが、この点についてはあまり触れないで、事実上棚上げして、実際両方が実を取るということを狙った協定です。
時間がありませんので詳しい内容はお話ししませんが、この協定は、これまでの日ロ関係において北方4島周辺における問題で初めて日ロ双方が合意したという点で、かなり画期的だったと思います。
こうした動きを受けて、クラスノヤルスク、川奈でノーネクタイ会談、いわゆる日ロの非公式首脳会談が行われた。97年11月のクラスノヤルスク合意、これは東京宣言に基づいて2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くすことを合意したものです。これとともに、日ロ双方の経済協力の枠組みを定めた橋本・エリツィン・プランというものが策定された。このクラスノヤルスク合意を受けて行われた川奈での会談は、それをさらに若干進めて、平和条約が東京宣言第2項―北方4島の帰属問題を両国間で合意、作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決する―に基づいて4島の帰属問題を解決することを内容として、21世紀に向けた日ロ友好協力に関する原則などを盛り込むことで合意した。
この中で、21世紀に向けた日ロ友好協力に関する原則という、この文言はロシア側の強い要請で入りました。もともと、日本としては平和条約というのは当然のことながら、領土問題を解決して国境を画定した上で締結する、それは一つのものです。しかし、ロシア側としては、この平和条約というものを友好協力の原則までさらに枠を広げて、できるだけ領土問題のところをぼかしたい。