現在、財団法人日本国際交流センターとアメリカのカーネギー国際平和財団が共催しまして、トランスナショナル・シビルソサエティーという研究プロジェクトを行っています。私はこのなかで対人地雷の問題についてケーススタディーを行っているわけですが、それ以外にもCTBT(包括的核実験禁止条約)やNPT(核不拡散条約)における核軍縮交渉や、人権問題、世界銀行が融資する途上国でのダム建設を監視するNGOプロジェクトといった、6つの例を研究しております。こういった分野のNGOのなかにも、オタワ・プロセスのなかでICBLが実証した利点などを共有しようとする団体、もしくはネットワークがあります。
人権や核軍縮といったようなまさしく歴史のあるNGOによるトランスナショナル・シビルソサエティーと、短期間で取り組んできた地雷のネットワークでは、その特徴はさまざまです。しかし、共通していることは、国境を越えて多数の国の市民社会が同じ目的をもって連帯をしながら行動していくことによって、特定の国益の代弁者としてではなくて、問題に対する代弁者としてかかわっていくという特徴を挙げられると思います。
つまり、どの問題でもそうですけれども、問題にかかわっているNGO、市民社会は、国ということを、我々もそうですが、あまり意識しておりませんし、ましてや国益を代弁するというようなことは全くありません。英語ではグローバル・コンシャスネスというふうに呼ばれておりまずけれども、一カ国の利益を追求するのではなくて、世界に共通した課題の利益を追求していくことが前提としてあるわけです。
そして、こうしたトランスナショナル・シビルソサエティーといったものが台頭してきた背景には、もちろん冷戦終結ということが挙げられるわけですが、そういった流れのなかで、国家だけを単位とした国際政治では多様化する市民の意見を反映できないという認識を、それぞれがもっているからだと思います。
政府だけが国家利益を代表するのでは、政府と市民の利益が合致しなかった場合、一致しなかった場合には、その国の政府は国際社会に自国の市民の利益を反映させることが非常に難しくなります。ここに国際政治の非民主化もしくは非民主性という問題が生じるわけですが、一方でICBLの取り組みにみられますように、トランスナショナルな市民社会の連合体を構築し、利益を共有する政府とパートナーシップを築くことができれば、国際社会を変えていく新たなシステムが誕生することにもなります。