それからかつては、必ずしも自分たちはインドネシア人ではないということが分からない人がたくさんいた。今はほぼどこに行っても、自分たちをインドネシア人と思うか、そうではないと思うか、かなりはっきりしてきた。ですから、その意味ではかつて50年代には片付かなかった問題が、今は片付くんじゃないか。その意味では今、一見極めて混沌としているし、恐らくこれから5年くらいこういう状態が続くと思います。ひょっとしたら10年続くかもしれません。だけどその結果、振り返ってみるとあの非常な危機のときに、ついにインドネシアというのは1950年代には克服できなかった問題を克服できるということになるのではないかなというふうに思っております。
そのことは逆にいいますと、インドネシアのナショナリズムというのは未だに非常に強い。その意味で、ユーゴスラビアとは違うということにもなります。
C その観点に関連して、スカルノも努力し、そしてスハルトもいろいろやりながら築いてきた1つの成果に、インドネシアの社会のなかに中間層というのが非常に増え出してきたのではないかという見方もあると思うのですが、今日先生がお触れにならなかった視点の1つ、華僑の話と中間層を含む社会世相という観点から、今後のインドネシアの政治とか安定化とか、また大変か、このあたりをお願いいたします。
白石 中間層というのはみんなが議論するものですから、私もへそ曲がりなところがありまして、中間層が成立すると民主化にいくという、これ話としてはよく分かるのですが、それほど簡単な話じゃないよという気がするのであまり言わないのです。実際問題として、先ほど私は政府と反政府、中道勢力の間で大体昨年の11月に合意ができましたと申し上げましたが、こういう合意をいわば支えた層というのが中間層です。
つまり下層が今反乱というか、暴力的にいろいろなことをやり始めた。それに対してものすごく怖がっていて、これからますます街頭での政治がひどくなったとき自分たちはどこにいくんだろうという恐怖感をもっているのは都市の中間層で、そういう期待を担ってハビビもアブドラファン・ワヒッドもメガワティも、なんとかしてこの中間層のリーダーシップというのを維持しようとしている、まあそういう話なんだろうというふうに思っております。