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ですからそのように、何でもありの政治のところでは、普通の人だって何でもありになります。そうでなくてタイの場合には、やはり何でもありではないのです。何らかのインフォーマルなルールがタイにはあった。そういうインフォーマルなルールというのをインドネシアの人たちがある程度身につけるまでは、私は暴力というのは起こると思います。それではどうやってそういうインフォーマルなルールをつくっていくのかというと、これは一言で言うと、私は落ちるところまで落ちるしかないとみていますけれども、それには時間がかかる。5年から10年ぐらいの間に、こんなことをやっていたら我々本当に大変なことになるとなったときに、初めてやっていいこととやっていけないこととのルールづくりというのが始まるのではないか。だからこの問題はまだ続くだろう。これが第1点です。

第2点は、これは先ほどから申し上げている点ですが、インドネシアの政治が極めて多元化しました。かつてですと、要するにインドネシアの政治のなかでカウントしたのは、大統領と軍人だけだったわけですけれども、いまはNGOも政党もジャーナリズムも、農民も労働者も、あらゆる人たちが政治過程に参加してきています。そのなかには、選挙、あるいは合法的な手続きでもって政治をやりましょうということを受け入れない人たち、つまり例えばハビビが次の大統領になったら、そのときに今度負けたから次の選挙で戦おうというとりあえずの敗北を認める人たちと、恐らく認めない人たちが出てくると思うのです。

そういう人たちは、いわばシステムの外に出ていって選挙のような合法的なルールの外で反体制運動を始める。そういう可能性というのは非常に高いと思います。そういう人たちをどうやって政治過程のなかに引っ張り込むか、あるいは統合するかというのが実は非常に大きい問題ですが、今のところよく分かりません。少なくとも現在までのところ、その展望はあまりよろしくない。例えば、スハルトの子供たちは、ゴルカルの臨時党大会で負けたあとに完全にシステムの外に飛び出して、そこで金をばらまいてヤクザを使っていろいろな暴動をやらせている。退役軍人で負けたグループは、やはりゴルカルを飛び出して新しい政党をつくっていろんな策動をやる。イスラムの右派も同じだ、左派の学生もそうだということで、負けたグループが次から次へと全部システムの外に飛び出して、それで中道の勢力を攻撃するというのがいまのところのパターンです。そうしますと、今度の選挙で仮に自由で公正な選挙ということが実現したとしても、恐らくそこで負けた勢力というのはシステムから飛び出していって、システムの外からむしろその政権を、中央を攻撃するという可能性がある。

それから3番目に今度は中央と地方の問題で、ここはアチェの行方が非常に大事ですけれども、やはり権限分配、資源分配のところで、どういうディール(取引き)が行われるか全然分からない。

こういう問題を全部クリアしないと、恐らくインドネシアの政治は安定しないだろうし、安定しなければ当然ながら、今日華僑についてはほとんど何もお話しませんでしたけれども、チャイニーズがもう一度これで大丈夫だということになって戻ってくるという可能性もありませんし、そうするとインドネシアの経済の発展はないし、経済がもう一度成長の軌道に戻らなければ、最終的にインドネシアがいわばスハルト時代のような政治の安定と経済の発展といういわゆる好循環ですね、こういう軌道に戻ることも難しい。

ということで、正直なところ、私の現在のインドネシアに対する展望は極めて悲観的でございます。以上で、一応終わらせていただきます。

 

 

 

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