いくらアフリカのスリがのろまでも、みすみす捕まるようなヘマはしないだろうと思って、当てにしないで勧められるままに椅子に腰を下ろして待っていました。見渡すとなかなかセンスのいいネクタイがある。ああ、これはちょっと高級店のようだなとグルグル見渡していると、やじうまたちはみんな外に追い出されました。
私は20分ぐらい待ったような気がするのですが、また外でガヤガヤと音がして、「ポリスが来ました。」と店の主人が言うので、ああ、そうか、じゃあポリスがどんな格好をしているのか見ようと思ってポリスの制服を見たい一心で待っていたら2人の男性が入って来ました。若い1人は真っ白なシャツとパンツの上下、ちょうど日本の中学の体操の先生のような格好です。もう1人はグレーのオーバーポロシャツにグレーのズボンの中年男。
これがお巡りさんかいなと思いました。お巡りさんに対して私は起立をして迎えました。
「まあ、おかけください」と言って、「パスポートは大丈夫ですか」「はい、大丈夫です」「何を無くされたのですか」「四角い財布」、その「四角」という言葉が思い当たらなくて「ライク・ディスのスクエアの財布」と言ったら、意味が通ったのでしょう。「アウトサイドがレッドで、インサイドがブラックのレザーの財布です」。そうしたら「中にはいくら入っていましたか」と言うから、「今朝US20ドルをアフリカンマネーに替えたお金と、それからジャパニーズ円が1万だったか2万だったか入っています。それからあとはUSダラーがいくらか入っています。」
そうしたらパッと出して見せたのは、私が指輪の壊れたのを私は紙に包んで入れていたのですが、「これはあなたのですか」「ああ、それを忘れていました。はい、そうです」「じゃあ、これ」と言って財布が出たのです。びっくりしました。「どうぞ中をお調べください」とポリスは言います。その財布にちょっと泥がついていましたからその泥を払ったら、「いまピックポケットをキャッチするときにスリが向こうに投げたので泥がついたんです。ベリー・ソーリー」とか言ってくれましたが、そして中もちゃんとあるし、無事に戻ってきたというお話です。
更にお巡りさんが「あなたはここに何日間ステイされますか」と言うから「いいえ、ステイしません。イタリアの“ガリレオ・ガリレー”という船で今朝早く着いて、そして今日の夕方にはもう出航します」と。そうしたら周りの人がみんな「ヒー・イズ・ラッキー」と言うのです。何のことだろうと思ったら、お巡りさんが「ヒー」とはピックポケットのことで、あなたがここにステイしないから告訴する権利がない。だからピックポケットはそのまま釈放されるということで、みんなが「ヒー・イズ・ラッキー」と言ったわけです。