おわりに
最近約20年間の民営化政策により、英国の自治体行政や医療機関は、多くの自己変革を余儀なくされてきた。しかしその結果、これらの公共機関が民間業者やNPOとの協力関係、あるいは高齢者との直接対話に多くの経験を蓄積してきている。もちろん、多くの課題に直面していることに変わりはないが、行政と民間業者、NPOそして高齢者が一体となり、高齢者問題に対応する基盤は徐々に整いつつあるように思われる。とくに、50プラスの参入によって高齢者対策の裾野が広がり、より高いレベルでの政治的論議が始まったことは間違いない。ブレア首相は「わが国の人口は高齢化し、今後もさらに高齢化は進行する。しかしこれを負担とみるのは間違いであり、チャンスとして捉えなければならない。政府の仕事は、全国民がこのチャンスを活かせるようにすることである」と述べている。これから英国では行政と民間、そして行政と市民が連携を取りながら、高齢者本位のサービスを目ざした新しい実験やシステム刷新がより一層進むものと思われる。
時代のキーワードは「パートナーシップ」である。この概念もかつての「国と自治体のパートナーシップ」から「公共と民間のパートナーシップ」となり、さらに最近では「行政と市民(利用者)のパートナーシップ」へと、そのレベルと内容は徐々に進化してきている。そして現在「パートナーシップ」といえば、国、自治体、民間業者、NPO、利用者そして一般市民、すべての関係者が対等の立場から連携し、サービスの質およびコスト両面での「最大効果(ベストバリュー)」を共同作業として追求することを意味している。市民の公共サービスに対する見方も、「与えられるもの」「受け取るもの」「任せる」という受け身型から、今後は「交渉する」「協力する」あるいは「責任をもつ」といった自己責任を伴った形に徐々に変わってくるものと思われる。
ブレア政権の「公共サービスの現代化」政策も現在はその足どりが始まったばかりであり、実際にどれほどの現状改革につながるのか未知の部分も多い。また、ブレア政権は1期目は安全運転を基本とし、2期目に入ってから本格的な改革に着手するだろうと予想する人も多い。これまでの約3年間に着手した改革だけでも十分大がかりという気がするだけに、どういう改革がこれから展開されるのか、今後の動向が注目されるところである。