1994-99年:
1994年からは介護をする若者が直面する問題を社会的に問いかけるキャンペーンを始めている。まず、「若手介護者支援プロジェクト」を試験的に起ち上げ、介護に関わる専門家の理解を促すための研修教材を準備し、さらに巡回展示も全国的に行っている。そして、1998年には専門家向けの冊子「若手介護者への支援」を発刊している。1995年に介護者法が制定されたが、その作業の段階で保健省の委員会に出席し、介護者を代表して意見を述べている。また、1996年には首相官邸でクロスローズの活動を紹介するレセプションが開催された。1999年に政府が「介護者戦略」を作成した時には、その準備段階から介護者の声の伝達やデータ提供面で大きな貢献をしている。
ここで説明したクロスローズの足跡には、一つのNPOが誕生し、社会的に大きな役割を果たせるようになるまでのプロセスがよく示されている。英国ではNPOによるこうしたボトムアップの運動が、社会を変える力となるのはよくみられるパターンである。そして、このパターンが英国での社会づくりの一つの定型となっているため、NPOの社会的役割が正しく評価され、それに見合った使命感をもってNPOが活動するという文化が育っている。言い換えれば、NPOの活動が衰えれば英国社会のダイナミズムが失われてしまうことにもなり、このことの理解が、政府や政治家、そして企業がNPOを支援する共通の基盤となっているように思われる。
4) 行政とのパートナーシップ─―Warwickshire Age Concernの場合
ところで行政からのNPOへの支援は、伝統的に「補助金(grants)」という形で提供され、NPOの独立性を尊重して使途を定めないという形をとることが多かった。しかし、公費削減と公的サービスの外注化が進むにつれて、この補助金という形での支援は大きく減少し、変わって使途を特定した「サービス契約/合意(service contracts/agreements)」による協力関係が急速に増えてきている。あるいは、自治体や国の機関とNPOが資金を持ち寄り、共同でプロジェクトを進めるという形も多くなった。ここでは全国に約1400あるエイジコンサーン支部の一つである「ウォーリックシャー・エイジコンサーン:略してWAC」を事例として、NPOがどのような公共サービスを担うようになっているかをみてみたい23)。
WACは1964年の設立で、現在約50人の有給スタッフをもつ。WACで提供する主なサービスは表26に示す通りだが、スポンサー欄にみるように、国の機関や県、市町村などとの協力関係が非常に多い。