例えば1994年でみると、一般医(あるいは訪問看護婦)による75歳以上診療の約3割は患者の自宅で行われている。1990年NHS法によって75歳以上の高齢者は年に一回、訪問診療を無料で受ける権利が与えられており、これが訪問診察を増やす一因にもなっている。一般医は自治体のソシャルワーカーと密に連携をとっており、高齢者の介護ニーズの判定を依頼したり、要介護となればケアパッケージのデザインやサービス提供面で両者の協力が見られている。
一般医とともに、高齢者のケアに大きな役割を果たすのが地域看護婦である。とくに1970年代からは一般医やソシャルワーカーとチームを組んでプライマリーケアを提供するようになり、退院患者の自宅での医療介護や地域での健康の増進など、幅広い活動を実施している。
上で述べた75歳以上のヘルスチェックも、一般医と連携を取りながら地域看護婦が実施するケースが少なくない。1990年代初めの時点で約1万8千人の地域看護婦が登録されている。最近ではストマセラピー(stoma therapy)や糖尿病、失禁といった分野で専門的な地域看護婦が養成され、現場での地域看護婦をバックアップする体制が整備されている14)。
また、ガン患者などへの終末ケアの面では、全国各地で活動するNPOのホスピスや、同じくチャリティ団体である「マクミラン(Macmillan Cancer Relief)」から派遣される看護婦が大きな役割を果たしている。これらのNPOは終末ケアの面で多くの経験と実績をもっており、NHSの医者や看護婦への助言や研修なども提供している。
◆病院でのケア
病院の利用は一般医の紹介で可能になるが、とくに高齢者の場合は救急で直接病院のサービスを受けるケースも少なくない。すでにみたように、病院は独自の理事会をもつ「NHSトラスト」として独立運営がなされており、スタッフの雇用や給与、研修機会の提供やサービス料金の設定などが自由にできるようになっている。
すでに1960年代から病床を減らす戦略がとられ、1976-94年にかけての期間だけでも、老人病床は1万8千床(約33%)減少している。一方、1980年代には国の社会保障予算で民間のナーシングホームへの入居が支援されたため、ナーシングホーム数は急増した(表17)。また、入院病床だけでなく、入院日数も最近は短くなってきている。老人病棟での入院期間は1979年の平均77.5日から1980年代末には40日を切るまでになっているし、最近ではさらに緊急病棟での入院日数も大きく減っている15)。この結果、退院患者の在宅ケアへの移行をいかに迅速かつ安全に行うかが重要なケアテーマになってきている。