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イギリス

イギリスにおける高齢者対策の動向

 

第1部 序論:英国における高齢化社会の現状

 

1 はじめに

 

英国はイングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域からなる連合王国であり、高齢者福祉の仕組みもそれぞれの地域で異なっている。とくに、1999年にスコットランドとウエールズへの分権が実現したため、今後は4つの地域ごとに高齢者対策の違いがより顕著になっていくものと思われる。

英国は世界に先がけて都市化や工業化を経験し、高齢化を含めたさまざまな社会問題に一早く直面し、独自の実験を通して新しい社会システムを創ってきた国である。世界で最初に福祉国家のモデルが構築できたのがその一例だし、最近では民間活力を生かした福祉ミックスのモデルが注目を集めている。

1997年5月に誕生したブレア労働党政権は、約20年間におよぶ福祉の民営化を経験・消化英国社会で、「第3の道」による新しい国民福祉のモデルを構築しようとしている。

最近の高齢者対策論で一つ注目されることは、高齢者の介護という従来型の課題に加えて、50プラスの声やパワーをどう生かすかという議論が活発になってきたことである。すなわち、介護という次元を超えて、新時代の高齢者が求めるライフスタイルや生活の質をどう実現するかという、高齢社会のあり方そのものを問いなおす動きが出てきている。英国においていよいよ本格的な高齢者対策が始まろうとしているわけであり、現在の課題や改革への動きなどは、そうした新しい文脈の中で理解される必要がある。

 

本稿では主にイングランドの制度と現状に焦点をあて、英国での高齢者の生活および高齢者対策の現状と課題および最近の動きについて論を進めて行きたい。

なお、イギリスの高齢者対策に関連してすでに2つの報告書を刊行している。一つは「イギリスの高齢者福祉医療対策─新しい地域ケアシステムの創造をめざして」で、この中1990年代初めにコミュニティケア法が導入されるようになるまでの状況について説明している1)。もう一つは「イギリスの高齢者福祉におけるボランタリーセクターの役割」で、英国のボランタリー団体の役割や高齢者福祉に関係するNPO団体(約40団体)についても説明を加えている2)。本報告書と併せて参考にしていただきたい。

 

 

 

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