昔から今日まで子どもが親を扶養するのは道徳的規範であり、法的規範にもなっている。もし、老親を扶養しなければ、「親不孝」と思われ、世論に批判され、「10の許されざる罪」の1つとして厳しい裁きも受けることになる。1950年代以来、憲法と民法・婚姻法・相続法などの法律によっても、敬老、親孝行が規定されてきた。それ故に、中国では高齢者福祉事業があまり進展しなかったともいわれる。しかし、高齢者が安心して老後を送るためには、経済を発展させると同時に、やはり高齢者福祉を充実させ、年金制度や社会福祉制度を普及しなければならない。
勿論高齢者問題には、経済のほかに「精神的充足」の課題がある。晩年になって子どもや孫に囲まれ、話を楽しみながら晩年を過ごすのは昔から高齢者の最大の望みであって、現在もそのような思いをもっている高齢者は少なくない。子どもが仕送りだけを行い、他に何もしなければ、高齢者はむしろ淋しさが増すとも言われている。
上海市では1950年代から事業所による年金制度を作り、勤めた経験のある人の定年退職後は、それによって保障されるようになった。ところが、高齢者の心理状況は、家庭や家族との関係に大きく影響されていた。しかし、こうした高齢者心理とは別に、急速に社会は変動し、核家族化は進行した。一人っ子政策の浸透は、今までの「父母在児不遠行」(両親が生きている間には子どもは遠くへ行かない)などという伝統的考え方も次第に崩れ、多くの若者がより良い仕事を求めて、広く他の地域に生き、親元から離れていく。
上海市老齢科学研究センターとフランス社会老後保険基金会は、1994年に「21世紀の高齢者」(現在中年である45〜54歳の人)に対して老後の生活様式についての希望調査を行った。それによると調査対象者1,800人のうち、1位は「家で配偶者に世話をしてもらう」(43%)、2位は「老人ホームや介護院に入所する」(19.67%)、3位は「家で子どもに世話をしてもらう」(15.29%)であった。
同じ質問で1990年に行った調査では、「子どもに世話をしてもらう」が1位であった。この二つの調査からも、老後の生活様式に関する考え方は中年者と高齢者とでは違いがあるものの、ともに家族関係のある老後生活を望んでいることが分かる。
しかし、少子化と長寿の結果、上海市では「4 : 2 : 1」(2組の老夫婦4人、夫婦2人、子ども1人)の家族パターンをみると、真ん中の世代は親の面倒を見て、子どもの扶養をする。そして真ん中の世代の老後期には、日常の世話を子どもに頼ることはむずかしいと思われる。したがって、先述したように、少子高齢化の進んだ上海では、上海「新民晩報」紙のアンケートのように、「老親と子どもの同・別居」について、市民は高齢者も含めて「別居に賛成」は6割、「近距離での別居に賛成」は3割、「同居に賛成」は僅かに1割でしかない。というのが今日の上海そして21世紀の中国の社会意識であろう。
<以上、吉田成良、馬利中まとめ>