日本財団 図書館


老いて支え合って暮らす島

 

西瀬戸内海に浮かぶ周防大島(山口県大島郡)は、お年寄りが生き生きと暮らす生涯現役の島だ。六〇、七〇歳は青年団、八〇歳を過ぎても元気に早朝から漁に出る。ミカンが黄色く実る季節は山の上まで続くミカン畑で収穫に精を出す。「大島みかん」のブランドで関西方面に出荷される地場産業の担い手は高齢者だ。

周防大島の高齢化率は全国でもトップクラス。大島町、久賀町、橘町、東和町の四町からなる大島郡の高齢化率は四〇・九%で、山口県の平均(二〇・四%)の二倍。中でも東和町は二人に一人は六五歳以上(四九・五%)と日本一高齢化率が高い。二二集落のうち一三集落で五〇%を超え、住民三五人のうち三〇人が六五歳以上という集落もある。

働き盛りの四〇〜五〇代や孫世代の多くは島外に住む。「若いもんは帰ってこんじゃろう、と思っているから、自分のことはできるだけ自分でやって、できないところはお互いに助け合って暮らしている。"食べ助け"なんかお年寄りの生活の知恵でしょうね」と、東和町社会福祉協議会の中本好則さんは話す。"食べ助け"とは食べきれない魚や野菜をおすそ分けし合うということ。老いても一人になってもこの島で暮らしていたいと願う自立心の強いお年寄りが多いのだ。

東和町が一九九一年から取り組んでいる「毎日給食」も"食べ助け"の一種。年中無休でランチジャーに盛り付けた温かい弁当をお年寄り一〇〇人余りに届けている。毎朝五時からはじまる弁当作りには、とても八一歳とは思えない亥川鶴枝さんの元気な姿もある。ランチジャーを一軒一軒に配るのは配達ボランティアの仕事で、八三歳の天野スミエさんは手押し車にジャーを積んで配って歩く。

弁当を配るのも受け取るのも高齢者。毎日、顔を合わせて言葉を交わすから淋しくない。瀬戸内の温暖な気候にも恵まれたこの町を高齢者の理想郷と言う人もいるが、中本さんは「一〇年先はこうはいきません」と顔を曇らせる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION