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六五歳以上の人口が占める比率を示す高齢化率は二三・五%と約四人に一人がお年寄りだ。最高の東和町は二八・○%に達する。原因は若者の流出と出生率の落ち込みである。

田代喜毅南方町長は語る。「若い人たちは親を置いて家族ぐるみ仙台や東京に出て行ってしまう。息子らから都会に招かれた“呼び寄せ老人”も都会に馴染めず、戻って来ます」。もっと深刻なのは嫁不足で、「人口九七〇〇人のこの町に四〇歳を過ぎても嫁の来てがない男子が三五〇人もいるんです」。町の主産業は稲作を中心とする農業で町内の農家は一四〇〇戸だが後継者は「一人か二人」。他の八町も「似た状況」だ。

地域崩壊に歯止めをかけるため「住みよい地域社会、老後が安心なまちづくりを介護保険を柱にきちんとやりたい」と語る町長の言葉には切実な思いがにじみ、地域を守ろうとする気概がうかがえる。これまでのように在宅サービスを各町の社会福祉協議会がバラバラにやっていたのでは効率が悪いため滞在型で一三・五%、二四時間巡回型では一・七%しか必要量を満たせない。町長たちが三〇回にも及ぶ会議や勉強会を重ねた末にたどり着いた結論が介護のプロに地域全体の在宅サービスを任せるということ。そのための新会社設立だった。

 

株式会社化の気がかりは?

利用者主体の思いをどう維持し続けるか

 

それにしてもなぜ、株式会社なのか? 推進協議会の会長を務める田代町長は明快に答える。

「地域の介護体制づくりは首長の責任です。住民の要請に応えて迅速かつ心のこもった介護サービスを提供するためには非効率な社協や町の直営では不可能です。公務員や実質的に準公務員の社協ヘルパーは深夜勤務はやらせにくい。さりとて第三セクター方式は手続きが煩雑で緊急サービスができません。株式会社なら社長の判断で適切な介護を迅速に提供できる。そこに期待しているのです」

株式会社への転機は、町長たちと在宅介護会社コムスン会長・榎本憲一氏との出会い。地域福祉座談会の講師として二度にわたって同氏を招き、勉強しているうちに榎本氏を社長とする会社設立構想が固まっていった。

 

 

 

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