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部屋の外の喫茶コーナーで車イスの入居者と話すエルサ・イヨンセンさん。

 

生活にゆとりのある主婦たちが、幼児や高齢者など社会的弱者の施設を支援するのは、ボランティア活動の原初的形態だ。ほぼ同様な形ではじまったが、地方の一組織であるスーボーフレンドと違って、今ではデンマーク全域で広範囲に活動するボランティア団体がある。

デンマーク高齢者連盟(エルドラ・セイエン)。高齢者の相互扶助をめざして一三年前に設立し、今では会員四一万人を擁する。六〇歳以上の国民の約三割が加入していることになる。全国に二〇七の支部を持つ大非営利組織(NPO)だ。年会費一四〇クローネ(約二八〇〇円)。高齢者の社会参加を支援し、旅行企画や会報発行のほか行政への積極的な働きかけでも知られる。ケア活動に当たる会員はこの三年間で倍増し、現在全国で一万人。うち四〇〇〇人はコーヒーを一緒に飲んで話し相手をする。視覚障害者には手紙や本を読む。残りは庭の芝刈りや樹木の手入れ、買物代行などまでする。ところが窓拭き、調理、掃除、病院への送迎には絶対に手を出さない。

専門のホームヘルパーの仕事には介入できない。ヘルパーの職を奪い、失業者を生むことになるからだ。以前は掃除は許可されていたが、今はだめになった。ホームヘルパーはプロという意識が確立されている。その研修期間は、かつては七週間だったが今では一年間に及ぶ。高齢者施設はヘルパーの労働の場であり素人が同種の作業をすることは禁止だ。ヘルパーの労働組合の力も作用している。

だから、ボランティアがベッドにいる居住者を車イスに抱えて移すのはとんでもないこと。それは、ヘルパーの仕事であるが、実はヘルパーにとっても禁止事項だ。「二五キロ以上のモノを抱え上げてはいけない」と、労働環境の関連法で決められているからだ。介助者が腰痛になれば、その医療費、介護費がまた増えることにもなる。

 

 

 

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