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市民の手づくりによる新たな"福祉サービス"への予感

 

「俺の友だちに変な奴がいるんだ。ちゃんとした会社を辞めてよその老人の世話をするんだって!」

「それこそ時代を先取りするまっとうな生き方じゃないか。ぜひ紹介してよ」

こうして出会った深澤文雅さん(五六)。無借金経営で有名な優良食品商社を辞め東京から宮城県の鳴子温泉の近くに移住してグループホームを開設する。高校のクラス会でこのプランを披露すると旧友の多くは、いったんは驚くものの、第二の人生はホーム併設の畑でお年寄りたちと一緒に野菜作りをするという彼の夢を聞くと「俺が手伝えることはないか」と身を乗り出す。

その深澤さんに誘われて二月二七日、小雪の舞う仙台を訪れた。行く先は同市青葉区の東北福祉大学。「全国痴呆症高齢者宅老所・グループホーム研究交流フォーラム'99」(主催同実行委員会)の会場である。ここでいう宅老所・グループホームとは、日帰り・滞在・居住を含む小規模ホーム(五人〜八人程度)を指し、運営主体が法人か否かや営利・非営利を問わない。

この催しは昨年に続いて二回目。前回は定員四〇〇人の会場を用意したが、倍の参加者が来たので今年は定員を八○○人に倍増したが五〇%増の一二〇〇人も押し寄せ、あわてて第二会場を増設した。深澤さんのような予備軍も多いからだろう。メイン会場の音楽堂「けやきホール」は参加者の波で真っすぐには歩けない。

ホールを埋め尽くした顔ぶれは北海道から沖縄まで全国から。宅老所、グループホームに携わる人はもとより寮母、寮父ら特別養護老人ホーム、老人保健施設、社会福祉協議会の職員、医師、看護婦、市町村職員、家族の会、福祉系大学、シルバー産業など高齢者介護に関係する多彩な職場、職種の人々だ。

幕開けのパネルディスカッションは実践者からのメッセージ「宅老所・グループホームの熱い思いを伝えたい」。

パネリストは一九八六年に日本初の痴呆老人援助専門ミニホーム『紬の家』をつくった沢向裕子さん(青森県)、一九九一年、この"業界"の草分けとされる『宅老所よりあい』を立ち上げた下村恵美子さん(福岡県)ら女性五人。槻谷和夫『ことぶき園』園長(島根県)の司会で「熱い思い」を語り合った。

 

 

 

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