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障害者からは自主性強化の願いがあり、現金給付は、ケアを受ける時間、場所、ケアの内容を自己決定する可能性のあるものとして期待されたのである。

一九八九年に、政府は、制度改革の一環として、現金給付の実験を始めた。都市一カ所と農村二カ所を選び、1]現金給付は本当に現物給付の代替たりうるのか、2]現金給付システムは利用者にどのような影響を与えるのか、3]現金給付システム導入により、現物給付を受ける利用者への影響、サービス提供団体への影響、サービスの総費用に対する影響などを調査したのである。その結果は、利用者は現金給付を望み、ケアの質も高く、利用者は自ら予定表を作り、家族・知人だけではなく、専門家のケアに対しても、依存的ではない傾向が見られた。また、現金給付は、個別のニーズをより考慮したケアを導き、総費用も減少した。ほとんどの利用者は、公的なサービス供給者に適用されている基準より、かなり低いレベルでの料金しか支払わなかったのである。

この結果、政府は、現金給付制度をやや小規模で導入し、全国レベルでの実験的計画として継続した。その中で問題とされたのは、利用者と契約を結んでサービスを提供するインフォーマルな介護者(家族・知人等)の位置づけである。労働者保護や最低賃金等と同等な制度をつくるべきかどうかの論議があり、労働組合は、介護者への社会的保護なしに現金給付を導入することに強く反対した(この論議はドイツに引き継がれ、ドイツでは介護者の年金保険料の負担と労災保険適用が行われている)。この論議により、新しい規制を設けることとして、一九九六年から、現金給付は実施されることとなったのである。

現金給付制度により、在宅ケアについて、どのサービス供給者とも契約を結べることができるようになった。このため、これまで在宅ケアを独占的に行ってきた団体は、競争にさらされ、その独占的地位を失うことが予想されている。

 

 

 

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