第1章 総論
1.1 労働災害の影響
「労働災害はあってはならない」「災害はゼロでなければならない」この言葉に異論をはさむ人は誰もいない。
しかし、残念なことに現実には私たちの働く職場では高い作業場所から墜落・転落あるいは機械に巻き込まれた、有機溶剤による中毒等の労働災害が発生している。
その数は、最近減少してはいるものの日本全体では未だに年間60万人を超える人が被災し、死亡者も約2000人を数え依然としてあとを絶たない状況にある。皆さんの職場でも転落、挟まれ、巻き込まれ、感電、酸素欠乏症等といった災害が発生している。中には死亡に至った例もあり、皆さんにとっても決して「他人ごと」ではない。
労働災害は、ひとたび発生すれば結果として死亡、負傷及び疾病を引き起こし負傷や疾病の場合は身体に障害が残ることなどもある。このことは本人はもとより家族にとっては問題が大きく、深い悲しみと心配であると共に家族は経済的にも精神的にも深刻な影響を受ける。職場においても、職場の同僚や部下を自分のミスや不注意で被災させると貴重な人材を失うだけでなく、休業するとそれをカバーするために同僚に時間的にも経済的にも大きな負担を強いることになる。また、対外的には会社のイメージにも傷が付き、更には信用も失うこととなる。
このように労働災害が発生して得をするものは誰もいないのである。
労働災害防止の責任は、一義的には企業にあるが、当然のことながら労働者にも法規・規則等の遵守義務があり、お互い守るべきルールがある。
いずれにしろ、かけがえのない命、身体を守るために「一人一人かけがえのない人」を原点に、自分はもちろん職場の仲間も誰一人怪我させない、病気にさせないという気持ちを深く持って、働く人それぞれが労働災害防止に関心を持ち、安全衛生に対する認識を高め、決められたことを実践し、安全で安心して働ける職場にしていくことが大切である。
1.2 災害発生のしくみ
労働災害は、ある日突然にやってくるものではない。その災害を起こす潜在的な危険要因が必ず存在している。つまり、災害はこの危険要因によってもたらされた結果であるといえる。
災害の原因はいろいろの要素が複雑に絡み合っているために、その実態はなかなかつかみにくいものであるが、一般的には災害は「物」と「人」とが接触した現象とか、「人」が有害要因にさらされた現象として表現している。