きっとそのときが本当に来るからね」と、A子の肩をたたき、力をこめて言った。夫もA子に近寄り、「今までだってお前に悪いようにはしてこなかっただろう。信じて待っていろ。心配しているから」とかみしめるように話した。A子はティッシュで鼻をふきながら自分の部屋へ戻っていった。
(13) あいたままの穴
仕事嫌いで暴力をふるう実父、それにおびえて暮らす母の元で生まれたA子。貧困が続く中、次々と生まれた3人の妹。親の愛情も充分に受けられず、欲しい物何一つ与えられず、我慢する立場に置かれたまま家庭崩壊となり、妹たちとともに里子となった。A子が「生まれてこなけりゃよかったといつも思っていた」と話すときは、決まって、欲しかったのに、食べたかったのになくて、寒い日にはく靴だってなかったと言うときである。この子の心の中にあいたままになっている大小の、多くの傷つきの穴をできるだけ埋めていこうと努めてきたが、いまだすきま風が吹いているA子の心が見える。人は、親になる前に、育ちの中で埋められないままになっているさまざまな穴を誰か特定の人に埋めてもらい、傷つきをいやされなければ、愛を受けることや人に愛を与える人にはなれないと思う。