古代以来、奈良において興福寺とその威勢を競った東大寺の最大の法会といえば、やはり「お水取り」であろう。元来は二月に行われることより正式には「修二会(しゆにえ)」と呼ばれるこの行事は、国家安穏、五穀豊穣等を祈願する年頭の行事で、その中核となる儀式は本尊十一面観音に対して罪障を懺悔する「悔過(けか)」にあるが、また多くの修二会と同様、神名帳が奉読されて、鎮守八幡をはじめとする全国の神々が会場である二月堂に勧請される。
本尊前には壇供として莫大な数の餅が供えられるから、招かれざる神々や、神と呼ぶには位の低い精霊たちも集まってくる。これらの中には、練行衆の行法に妨げをなしたり、疫病等の災いをもたらす悪霊・邪神がおり、こうした悪鬼・邪霊の堂内への侵入を防ぎ、同時に諸善神・菩薩等を勧請するための結界作法が行われる。この結界作法は、主として密教的な行法を司る咒師(しゅし)によって行われるが、その際、御幣が重要な役割を果す。
たとえば咒師は、お水取り初日の前日二月二十八日の夕刻には「大中臣祓(おおなかとみのはらえ)」を黙誦し、御幣を振りながら二月堂の外周と他の練行衆に対する祓を行う。