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このように蚕影山の幣束の信仰は、土地に伝わる在来の信仰と習合ながら、人びとのくらしの中で重要な役割を果たしていたのである。

 

◎蚕影山の幣束◎

永昌院に代々継承されてきた「金色姫蚕影山幣束」の特徴は、その特異な形と色使いにある。その形態は<写真42頁>のごとくである。この独特の形、そして色使いは、単なる独創的な形や色が組み合わせということではなく、そこにはいくつかの意味が込められ、伝承されてきたのである。

この幣束の全体を見ると、本尊を表す中心部分とハッショウジメでつながった八枚のサガリがつく両袖の三つの部分から構成されている。これらをそれぞれ三本のシノダケにはさみ、シノダケの元を藁を束ねた台座に挿し一つの幣束を成しているのである。

簡単に製作工程を追いながら、その形態的特徴、そこに込められた意味をみていくことにしよう。

まず本体となる和紙の枚数を揃え、九字を切って紙の祓いをする。用いる紙は色紙の赤・黄・緑・紫、それに白を加えた五種である。それぞれの色は順に火・水・木(桑の木)・地・シキ(天)を意味している。なかでも紫は強い魔除け、黄色は日常の弱い厄払いの色と考えられている。この五枚の紙を重ね、左右対象になるように両袖のサガリの部分から切っていく。サガリの中間の所々には七五三の数に則って折りを入れていく。

 

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幣を切る永昌院住職桑林盛海さん

 

蚕影山は「カミサマだから」ということで、上部の最前面に結界を意味する四タレ、八タレのついたハッショウジメと呼ぶ注連縄が切られている。

両側のサガリができると、紙の中央部分の白と緑の紙に小刀を入れていく。二つに折られた紙の端を鈎型に刻み、一方の折り目の方は切り抜いていく。これが一対の灯籠の形となり、蚕影山に毎日灯明を灯していることを表している。緑の紙で切ったものが灯籠本体、後方の白は灯籠の受け(背景紙)の役割をなし、切り方がわずかに異なっている。

次に、表側にくる赤の色紙を、灯籠を型どった緑の紙を前面に出し、これに切り目を入れていく。この際、切り目を入れる数には一つの決まりが設けられている。まず蚕影山の縁日である二十三日にちなみ二十三の切れ目を、さらに永昌院本尊である不動明王の縁日である二十八日にちなんで二十八の切れ目を入れていくのである。切れ目を入れ終え、これを広げると網目状のカゴのようになる。これはこのカゴに収穫した繭がたくさん貯まるようにという縁起物をかつでいる。

これに続き、赤色の紙の内側の黄色の紙を四つに折り、この紙に細かい切り抜きをしていく。これは「蚕影山は女のカミサマ」だからということで、女性の厄年である三十三にちなんだ三十三の数にする。「女の厄年は針目のようなきびしさ」だといって女性の厄祓いの意味と、同時に蚕が上蔟(じょうぞく)し繭を作らせるためのマブシを表現している。さらにこれには縁起のよい八という数のタレと呼ぶサガリをつける。これをヤタレ(八タレ)という。

さて次は、幣束の上部の前面となる部分である。赤を表の面として五種の色紙を重ねた状態で切り込んでいく。これはカミを表し、具体的な祭神名でいえば天照皇大神宮である。「蚕影山より上位にくる神である」とし、これを前に出すのだという。

 

 

 

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