日本財団 図書館


063-1.jpg

ゲルの中の演奏会

 

我々の訪問を知って、見物に来たのだろうか?と、考えるけれど、その連絡の方法が分からない。この家には当然電話などというものはないし、狼煙をあげていた訳でもない。と、するとこれは毎晩のことなのだろうか?

訪問者がくるたびに馬乳酒がふるまわれる。それは昼間でも同じだ。昼に車でやってきた家畜の仲買人のような男も、たっぷりと呑んでいった。もしかすると彼が我々の訪問のことを他に行って話したのかも知れない。

馬乳酒(アイラク)。白く濁ったどぶろくのように見えるこの酒は、字のごとく馬の乳から造る。ヨーグルトの酸味が強く、アルコールの度数はちょうど日本酒程度ではなかろうか。私には大変美味しいものに思われたが、呑みなれない人間が大量に摂取すると、間違いなく下痢をおこす。

男たちには、皆この酒が好きなようで、何かといっては良く呑む。我々も呑み始めると、言葉が通じない、などという事はどうでも良くなってしまい、お互いに分からない言葉で喋りながら、肩を叩いて大笑いしたりする。

見ていて面白かったのは、両手を使い、色々な振りを付けながら遊ぶ拳だ、これの歌がまた良い。節回しが見事なのだ。二人同時に歌っているのだが、掛け合っているのか、決まった歌詞があるのか、即興なのか分からない。早い時は数秒、しかし長引くと、五分間くらい勝負は続く。勝ち負けも、拳でなのか、歌の内容で決まるのか分からない。しかしともかく、周囲の「オー!」というどよめきと共に勝負は決まる。勝った方は、「どうだ!」と言わんばかりにふんぞり返り、負けた方は、茶わんに並々と注がれた馬乳酒を一気に飲み干す。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION