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部屋は、障子や襖でしきられ、おくの上之間や仏間などには欄間などもあっただろう。土間には奥の方にナガシやクドがあり、その向こうにもまた部屋が続くが、これは、比較的位の高い人々の宿泊スペースである。式台がおかれトイレもついている。家の表は、太めの格子で、小玄関は、お客を通すため引き戸で、式台がおいてあることから通常の出入り口ではなくお祝い事や行事など格式の高いことに利用されていたとも考えられる。2階も、部屋数が多く宿泊施設であったことをおもわせる。通りに面した部屋から廊下をはさんで奥の部屋へいくほど身分の高い人が宿泊するか、料金の高い部屋ではないかと思われる。これは、奥の部屋に床の間などがあることや、廊下よりおくの部屋の床が高くなっていることからもうかがえる。床が高くなっているのは、5-2-1奥野邸の内部構造で述べたように、平屋から2階建てへの過渡期というみかたもできるが、1階は奥にいくほど格式が高い部屋(主人の部屋)ということから天井が高くなり、2階については1階部分についての述べたのと同じような理由によって床が高くなっていると考えることもできる。安政2年(1855)の図については、1階の仏間の位置や中庭の廊下についても不自然な部分もみられ、今後の検討課題である。

2階への上り下りに必要な階段については、古絵図の変遷のところで少しふれたが、奥野邸ではハシゴダンが使われていたと思われるが、復原の際には箱階段をおくことにした。奥野邸には箱階段らしきものは残されていなかったが、復原の際にハシゴダンよりもわかりやすいのであえて箱階段をおいた。箱階段については「当時は2階を作ることが禁止されていた時代であり、表からは見えにくいところに2階をつくるとうことがかなりあったようだ。だが、そのためには階段が必要になるのは当然のことである。しかし、階段をつくってしまうと2階の存在が大ぴらになってしまうというので考え出されたのが箱階段だといわれている。階段の形をしたタンスという理由からのようだ。すごい理屈ではあるがこれならば許されたようで、おおいに流行したらしい。また、立派なものであるので、室内の調度品としても目を楽しませるものだったようだ。」と 吉田桂二氏も 『建築の絵本 日本の町並み探求 伝統・保存とまちづくり』の中で述べている。

5-3 魚屋町の町なみの保存・活用

5-3-1 町なみ保全と地域振興

町並み保全事業の特色は、地域に内包される活力と資源を継承し、引き出していこうという姿勢にある。伝統的な町家の保存も、保存行為を通して地域の生活や感性が再生されることに意義がある。復原・修復された町なみが単なる観光資源や見せ物ではなく、地域の生活や経済を支える住民の財産であるという認識が必要である。これがない限り地域振興とはなり得ないだろう。彦根にはそれが欠けているように感じられる。あまりに身近にありすぎて地域の財産であるという感覚がないのか、また、地域振興はもう無理だと思ってあきらめているのだろうか。

町なみ保存の多くは文化財保護の視点から出発するのが普通であるが、自分たちの住む町について関心と愛着を持ち、最も自分たちの町にふさわしい整備を目指すということが、町なみの保存において重要ではないだろうか。

まちづくりの基本は、まず町をよく知り、愛することにある。建築や町なみについての生きた知識を身につければ町を歩くときにも楽しくなり、そこから生活空間としての町なみの問題点も見えてくるだろう。行政や開発業者に任せるのではなく、自分たちで問題を見つけ解決への糸口を探っていかなければならない。

5-3-2 伝統的町なみにおける住空間

伝統的な町なみの空間は、その基本的な構成の中に現代の都市計画からみても評価できるものが多い。このことから、伝統的な町なみを現代の都市の中において的確に位置づける必要性がある。それは、保全するべきものは伝統的町なみのもつ空間構成のあり方にほかならないからである。この意味で町なみ保全は、景観の保全にとどまるのではなく、それが生まれた環境そのものを保全するこということにつながる。

伝統的な町なみの住空間においては一定の密度を超えて集住するため隣同士が接しあう。そのため、側面に開口部は持たず通風や日照といった基本的な環境条件を道路空間と中庭空間によって補っている。こうした制約によって単独の建物では維持することのできない環境条件が町家の共通特徴としてあらわれた。このように、町なみ保全とは表からは見ることのできない裏に隠れた住空間の構成を維持し、再生させていくことである。町家のシステムは、個々の建築が共通の規範を守ることによって、集住している市街地空間の中で生じがちな建築間の矛盾を回避し、環境条件をたがいに保障しあっているという点で優れている。これは、現代の都市問題に対するひとつの解答になり、また、町なみ保全の大きな意義となるのではないだろうか。

 

 

 

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