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3-1-3 彦根の町家の間取りの特徴

[1列型]

町家の一般的な基本形は、片側に土間、つまりトオリニワに沿って、ミセノマ・ナカノマ・ザシキの3室を1列に配した1列3段型である。ミセノマは職空間、ナカノマは居間と食事の場を兼ねるとともに、家の客を座敷へ通すための上り口ともなっている。ザシキは、正式な接客空間として、床・棚・書院といった座敷飾りを備えるとともに・仏壇も置かれる場合がある。彦根の町家の場合、この基本形である1列3段型の家が主流である。

しかし、例は少ないが、この1列型では4段型が2戸と5段型が1戸存在する。問題は、これらの4段型と5段型の場合、3段型に対してどのような部屋が付け加わるのかということである。

まず、4段型についてみてみると、表のミセノマ、奥のザシキの位置は変わらない。また、仏壇も座敷に置かれたままである。とすると、その真ん中にある、居間であるナカノマの位置が重要となってくるわけであり、この場合は2戸とも、3段目に納戸が付け加えられている。納戸は寝室であるが、この部屋は必ずしもナンドと呼ばず、名前がなかったりする。つまり、これはあまり重要とはみなされない部屋なのである。

ところが、ミセノマやナカノマ、ザシキのように確固たる機能をもたず、流動的な使われ方をしているにもかかわらず、一方で、座敷の前室的な性格があり、ミセノマ・ナカノマの生活的要素のつよい空間と儀礼的、格式的性格のつよい接客空間を区切るクッションスペースとしての役割を果たしているのである。

また、この部屋を寝室とすることにより、座敷が寝間から解放され、座敷の機能をより純化し、接客空間化をはかっているのである。つまり、結果的には納戸を付け加えるということにより、座敷の格を高めているということにつながっているのである。

つぎに、5段型についてみてみると、これは、彦根ではめずらしい平面構成であり、1戸しかみられなかった。トオリニワに沿って、1列に配列されるのは、他の1列型と同様であるが、標準型(ミセノマ・ナカノマ・ザシキの3段構成)と比べると、ブツマ及びナンドとゲンカンが付け加えられている。4段型において3段目に設けられていたナンドが2段目に位置し、4段目にブツマが付け加えられている。もともと仏壇は、3段型及び4段型では、座敷の床の間の横の押し入れに納められていたが、5段型になって、はじめて座敷から独立してブツマが設けられる。これにより、座敷の仏壇が置かれていたところに、違い棚を設けることができ、床の間・違い棚・付書院とが並ぶ、正式な座敷飾りを付けられるのである。従って、4段型以上に、より座敷の格を高めていると考えられる。また、この家の場合、3段目に中庭を設けることによって、ブツマ以後の儀礼的スペースとそれ以前の生活スペースとをはっきり区切るとともに、採光の面で不利である中央部の部屋への採光を確保し、居住性を高めているのである。

[2列型]

1列型に比べて間口が長くなり、奥行き方向への段数は4段どまりとなるが、それでも充分な部屋数を確保できる。2列型町家には、2列3段型と2列4段型の2種類があり、彦根の町家では、2列3段型が主流であるとみていい。通り庭に沿った1列目は、ナカノマ・イマ・ダイドコといった生活スペース、2列目はザシキ・ブツマといった接客的、儀礼的スペースとなっている。

2列型になって、部屋が増えたのだから、接客列になる2列目の中央の部屋をブツマとするのが普通であるが、あいかわらずブツマをザシキと共用する家もいくつかみられた。1列型と同様に、3室型が拡大し4室型以上になっても、必ずしもブツマが独立してとられるということではないのである。

また、1列目とそのとなりの2列目との間は、むろん襖や障子などの可動間仕切りが多いものの、特に隣接する部屋がダイドコの場合は、1列型の場合のザシキとトオリニワとの間の壁による仕切りのように、奥行き方向の部屋の間仕切りよりも、より厳しく区画するという傾向がみられた。つまり、間口が長くなった2列型への拡大は、単に住居の面積的な包容力を高めるということだけではなく、居住部分の格式化をつよめるためでもあり、外から出入りするトオリニワよりも奥まった列の方を格式の高い居住部分として確立することにつながっている。

 

 

 

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