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第3章 立花町の町家

 

土屋敦夫、山口佳代

 

3-0 調査の目的と方法

3-0-1 調査の目的

美しい自然環境に恵まれ、井伊家35万石の彦根城とともに城下町として発展してきた彦根市には、市内のいたるところに往時の特色ある姿を伝える町家が数多く残されており、彦根市立花町もその1つと言える。

現在この立花町には、新しい町並みを形成した夢京橋キャッスルロードにつづく、道路拡幅計画が立てられている。夢京橋キャッスルロードは、時代の変遷とともに、商業機能の低下、及び、交通面での対応も必要となってきたことから、都市計画道路本町線の整備と併せて、沿線の建築物等を城下町にふさわしい町並みとして再生することを目的に創出されたものである。

今回、立花町における道路拡幅計画の背景、及び、方法はこの夢京橋キャッスルロードとよく似ているという点に注意しておきたい。

今、彦根の商店街を歩いてみると、シャッターを降ろしたままの店舗が目に飛び込んでくる。例えば、防災街区として再開発した鉄筋コンクリートのビルが大部分を占めている銀座商店街、あるいは、戸別建て替えで構成されている中央商店街においては、地域の商店街として機能してきたものの、現在では、さびれつつある。しかし、そんな中でも活気にあふれている町なみもある。その代表的なのが、ごく最近新しく形成された夢京橋キャッスルロードである。伝統的な町家の家なみを造ろうとしているこの町なみは、一般の人には評判が良く、観光客も多いため、城下町彦根の最も人気のある町なみとなっているようであるが、その反面、今の町なみ構成を受け入れられない人もいるのが現状のようである。黒と白のはっきりとしたコントラストが逆に違和感のある、人工的に造られた町並みというイメージを与えてるのかもしれない。そこで今回、立花町道路拡幅計画においては、夢京橋キャッスルロードの成功と反省、および、現時点における彦根の歩みを明確に位置づけた上で、歴史的に蓄積されてきた、町並み景観を生かした新しい町づくりが成されるべきではないだろうか。それにより、伝統や歴史が連続された自然な町なみが形成されると考えている。

この調査では、この立花町の町家を実測調査し、今後の新しい町なみ形成にその間取りや伝統・様式が生かされていくことを目的とする。

高度経済成長の時期以降、都市化の進行とともに、彦根市民のライフスタイルや身の回りの環境が大きく変化し、人々の社会意識や文化の断絶が起こりつつある今、物の豊かさだけでなく、ゆとりや潤いといった心の豊かさを求める時代でもあると考えられる。現時点において、伝統ある町なみや彦根の歩みを知るとともに、これからの町なみ形成のあり方を研究することは大変意義のあることだと考える。

3-0-2 研究の方法と視点

江戸時代の中心であった立花町には、どのような建築、どのような町家があり、どのようなデザインが成されているかという点の現況調査をおこなった。ここでは、往時の特色を反映し、伝統ある町なみ、立花町らしい町なみを形成している点に着目するとともに、間口による間取りの変化や時代による間取りの変化などにも重点をおいて調査をおこなった。

まず、都市計画道路の対象となっている立花町を実際に歩き、一軒ずつすべての建物を写真に収めカルテを作成する。そして、得られた計97のデータを5段階で評価を行う(表3-1)。次に、そのA、Bの中から抽出した、調査したいと思う家21軒に実測調査希望の旨を伝えに行く。

 

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表3-1 建造物の評価基準

 

 

 

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