日本財団 図書館


2. マーケティングの必要性

 

1996年には1万人に満たなかった台湾から北海道への旅行者が1998年には7万3千人に達しました。1998年度のハウステンボスへのアジア人客は約36万人でした。また、台湾から沖縄への国際クルーズは、1998年に2万5千人以上の送客をしました。この様に、最近外国人旅行者誘客の成功例を耳にすることが多くなっています。

一方では、毎年海外ミッションを派遣し、旅行エージェント訪問を熱心に実施しているにもかかわらず、地元にはなかなか外国人旅行者の姿が増えない地方公共団体もあると思います。成功例を分析するとそこには確固としたマーケティングの考え方と的確な実践があります。

 

「プロモーション」から「マーケティング」へ

多くの地方公共団体は、以前から海外観光宣伝事業を実施してきました。しかし、その内容は、海外旅行博・トレードショーへの出展、レセプション・観光魅力紹介セミナーの開催、観光関係団体・旅行エージェントへの訪問、デパートの催事場での観光物産展の実施等が主なものでした。しかし、最近、特に日本の宿泊施設・テーマパークの間では、台湾、香港、韓国等からの訪日客の取扱いがビジネスとして重要度を増し、実際の売上げや取扱い客数の獲得を目指す、ハードセルを行うようになってきています。また、地方公共団体に対しては、地方行政の財政逼迫等を背景に、地域経済振興策として具体的に効果が見える海外観光宣伝事業が求められてきています。実際、九州、北海道等の地方公共団体では誘客の実績を上げており、誘客事業の方法や内容が以前と比べて改善されてきています。しかしながら、現在の地方公共団体による外国人旅行者誘客事業を概観すると、大勢は依然として断片的で形式化している事業が毎年繰り返し実施される傾向にあります。

海外観光宣伝事業あるいはプロモーションといわれる分野は、観光マーケティングの一部分です。確かに、プロモーションは直接旅行意欲を刺激する重要な役割を持っていますが、従来の誘客事業においては、プロモーションを強調しすぎる傾向がありました。しかし、マーケティングには、4つの"P"すなわち、Product「プロダクト(旅行商品の企画)」、Price「価格設定」、Place of Sale「流通経路」Promotion「プロモーション」という要素があり、プロモーションはその一つに過ぎません。誘客を実現するには、マーケット調査に始まり、マーケットのニーズと地元の観光魅力のマッチングを基にしたツアールートの提示、送り出し旅行エージェントのツアー商品販売促進支援等、一連の事業を計画的に実施する必要があります。従来の「プロモーション」中心から「マーケティング」に基づく誘客活動への転換が望まれます。

 

「大競争時代」に勝ち残るために

従来、日本人の国内旅行に依存していた日本の観光地や宿泊施設・観光施設は、国内旅行の不振や海外旅行のデスティネーション(目的地)との競争に曝されています。このような状況のもとに、日本の宿泊・観光施設は、台湾をはじめとして特にアジア方面にマーケットを求めるようになってきています。今や、日本の観光業界はボーダレス化しつつあり、大競争時代に突入していると言えるでしょう。

現在、アジアの経済危機の影響が比較的小さく、日本にとって最も有望な台湾マーケットには、台湾人客の獲得のため、日本各地の地方公共団体や民間企業が最近1年間に300件を超す誘客事業が実施されています。広域で共同宣伝する地方公共団体もありますが、台湾全体の外国旅行者数が600万人弱とはいえ、限られたマーケットで日本の多くの関係者が一斉に誘客活動をしているため、他の地方公共団体や民間企業相互の競合という様相を呈してきています。

このような状況の中で、明確な長期目標やマーケティング戦略を備えているところは、その場限りの宣伝事業で終わらず、確実に誘客の実績を上げる可能性が高くなります。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION