日本財団 図書館


死別後の遺族のケアについては、現代社会のありさまを現した一つの詩を朗読しながらケアの実際を紹介された。人間が大切な人を失って悲嘆にくれるのは当たり前であり、悲しみを十分聴いてもらうことが重要であるが、現代人の生活はあまりにもスピード化され、悲しみに浸っている時間が奪われ、人間関係が希薄になって話を聴いてくれたり、支援してくれる人もいなくなってしまった。死別後も家族を支援するプログラムが必要となっている。ロイヤルビクトリア病院の緩和ケア病棟では、死別3ヵ月後、手紙を送り、その中で死別後のケアの希望を聴く。その後、希望者に対してボランティアが訪問して話を聴いたり、定期的に電話をかける。ボランティアは心理学者や精神科医から特別な訓練を受けており、現在40人が活動している。話の内容は記録され、必要に応じて心理学者が面接をすることになっている。

遺族ケアの基本として次の4つが上げられる。1]悲嘆とは何か、その影響と今後の経過、また、支援体制などについて情報を提供する。2]一緒にいること。定期的に、同じ人がフォローアップする。3]感情面へのサポート、具体的な問題へのサポートが必要な時もある。4]問題が複雑な場合には、専門家を紹介する。

その他、悲嘆反応、悲嘆の過程、悲嘆が複雑になりやすいグループなどについても説明された。最後に、先生は、亡くなった人との関係が深く、愛情に満ちたものであったほど、失われたものの大きさを感じるが、充実した真の関係があったなら、その人から与えられた愛情が残された者の生きる力となる。愛する人が亡くなっても、愛はなくなることはないと付け加えられた。

 

緩和ケアにおける倫理的問題

 

治癒が望めない患者に死が間近に迫った時、肺炎などの治療をどこまですべきか、継続されてきた経管栄養をいつまで続けるべきかなど、倫理的な問題に遭遇する。こうした倫理的な問題へのアプローチとして、タワーズ先生は3つの段階で説明された。まず、何が倫理的なジレンマなのかを明確化する。次に、この問題を解決するために、他にどんな情報が必要なのか考え、情報収集をする。例えば、病状、予後、患者の意志、チームメンバーの考え、家族や友人の考え、法的な問題、経済的問題等々、こうした情報が集まってくると問題解決することがよくある。3段階目として、ある行動を選択した時に起こる可能性のある結果を他の行動の場合と比較してみる。その際、ケアの目標は何かを患者・家族と話し合うことで、倫理的問題を解決できることがある。話し合いをする時には、話しやすい環境への配慮、患者・家族がどこまで知っているかを確認すること、一回で答えを見つけようとせず繰り返し話し合いの場を設けるなども重要なことである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION