日本財団 図書館


家族をもっていた一人の主婦だった人が、まったく動けなくなって他人の手を借りなければならないような状態にあるときに、ベランダに洗濯物が干してあるのを見て、懐かしい家庭がそこにあるのだ、遮蔽された病院とは違って社会の人々とのつながりの中にいるのだということをいとおしみ喜ぶというような気持ちは、健康なときにはまったくわかりようのないものなのではないでしょうか。もっとも、その反対に暗い気持ちになる方もいるでしょうね。

 

いのちの最期

 

それから次は音楽療法に携わっているボランティアの方のお答えです。

「患者さんは両眼失明されて、寝たきりの状態です。患者さんはライアー(竪琴のような楽器)の美しい音をご自分で出せたことを涙を流して喜ばれました。唱歌のリクエストはご家族がされて、歌を歌いながら『本当にありがとう』とお礼を言ってくれました。音楽を使ってボランティアをしている喜びを強く感じます」

もうひとつ、「薬のために眠くて仕方がないので、聴くだけだといって参加された。歌のメニューが進むにつれてご自分でも歌われ、その声は次第に大きくなった。30〜40分のプログラムが終了したとき、ニコニコしておっしゃった。『思いのほか声が出ました。久しぶりに声を出して歌を歌いました』。旅立たれる3日前のことでした」。

みなさんどうでしょう。絵を描いたり、俳句を作ったり、歌を歌ったりして、それから3日後に亡くなったということをよいことだったとして評価しますか。どうでしょうか。これは非常に重要なことなのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION