(2) ゴメリ州で多発している小児甲状腺がん患者については、術後の追跡調査が重要であり、また甲状腺がんの患者対照研究が放射性ヨードやそれ以外の因子の関与を調べる有効な手段の一つと考えられ、すでに国際がん研究機関(IARC)から合同調査の依頼を受けているので、研究面からだけではなく、人道的立場からも甲状腺がん患者対象のプログラムを計画、実行する必要がある。
(3) 放射線被曝線量別の集団分けを行い、それぞれを固定集団(コホート)として、定期的に甲状腺検診を実施することは、放射線リスク評価のための重要な調査となる。また、すでに甲状腺異常を発見された小児や、高汚染地域に在住する子供達の継続検診は、人道的にも重要な課題といえる。しかし、この問題はロシア連邦カルーガ州とブリヤンスク州を中心に、オブニンスク放射線医学研究所が主体で調査を行うことが適切と考えられる。
以上3点のほかにも、個々の事例について協議されたが、5年間の事業評価と今後の予算や活動内容の可能性から、ベラルーシ共和国ではゴメリ州立診断センターを中核に上記3項目を継続支援することがチェルノブイリ笹川医療協力委員会で決定された。当然、被曝線量の再評価は重要な課題であり、現地と協議しながらそれぞれの対象集団についてデータを収集する予定である。
また、現場では甲状腺がんの手術サンプルが散逸したり、データの管理が不十分になる恐れがあるため、国際機関が共同して経費を分担し、甲状腺がんの手術組織バンクや遺伝子バンクを設立するために活動を開始している。これに対しても(財)笹川記念保健協力財団は資金援助を行うとともに専門家派遣を支援している。
今後も甲状腺疾患を中心に診断支援が継続される予定であるが、日本の専門家が現地を頻繁に訪問、指導する困難を解消し、現地との連絡を密にして迅速な対応を行うため、1999年2月2日からゴメリ診断センターと長崎大学医学部は衛星通信を介した遠隔医療診断支援システムを構築している。その結果、現在2台の超音波診断装置を用いた甲状腺画像診断が行われ、毎日80名前後の学校検診が継続されている。