3) 甲状腺検診
甲状腺検診では、甲状腺超音波検査、血清遊離チロキシン(T4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度測定ならびに抗マイクロゾーム抗体(AMC)と抗サイログロブリン抗体(ATG)の抗体価測定を行った。初回の検診データは内分泌専門医が検討した。
甲状腺超音波検査には、アロカSSD-520とアロカ630(アロカ、東京)を使用し、甲状腺と周辺組織、血管およびリンパ節の状態について、体積測定と質的分析を行った。アロカSSD-520は、アーク型断層オートスキャン方式を採用しており、7.5MHzのスキャニングプローブを用いて、甲状腺の体積、位置、構造、輝度および病変(結節、嚢胞、先天異常など)の有無を検査した。甲状腺画像に異常の見られた子供については、確定診断のためにエコーガイド下での吸引針生検と細胞診を行った。
甲状腺体積の測定は次のように行った。すなわち、甲状腺の断面画像11枚を5mm間隔で光ディスクに記録し、ディジタイザーを用いて全体積を計算する。甲状腺体積の測定におけるこの方法の精確さは既に確立されている。
甲状腺腫は、甲状腺の体積が次式で計算した体積(LIMIT)を超えた場合とした。
LIMIT=1.7×100.013a+0.028h×w0.15
ここに、aは子供の年齢(歳)、hは身長(cm)、wは体重(kg)である。この式の導出は、モギリョフ州立医療診断センターで検診した男児386人、女児415人のデータに基づき、統計的モデル選択手法と重回帰分析によって行った。これらの子供達は検診時の年齢が5歳から15歳で、居住地はヨード不足の地域ではなく、セシウム137の汚染度も1km2当たり3.7×1010ベクレルBq(旧単位の1キュリーCi)未満であり、セシウム137の体内被曝線量は体重1kg当たり50Bq未満で、甲状腺検査では異常が認められなかった。
血清遊離チロキシンおよび甲状腺刺激ホルモンの測定はアマライトホルモン分析器(アマーシャム、東京)を用いて行ったが、それは酵素抗体自動分析法を利用している。AMCおよびATGの抗体価は市販の診断キット(富士レビオ、東京)を用いて、間接赤血球凝集反応法で測定した。
5か所のセンターで検診した子供の尿中ヨード濃度の測定は、オートアナライザーIIシステム(ブラン+ルーべ、ノルデルシュテート、ドイツ)を用いて、モギリョフセンターとキエフセンターで行った。このシステムの感度は高く、尿サンプル500μL中の濃度0.1μg/dLの尿中ヨードが検出できる。
4) 血液検査
末梢血の検査には自動血球計数装置K-1000およびNE-7000(シスメックス、神戸)を使用した。また、血算値の測定は次の8個のパラメータについて行った。すなわち、1]白血球数、2]赤血球数、3]ヘモグロビン濃度、4]赤血球容積率、5]平均赤血球容積、6]平均赤血球ヘモグロビン量、7]平均赤血球ヘモグロビン濃度、8]血小板数。
白血球分類は、NE-7000による自動白血球分類に加え、末梢血塗抹標本を作成してメイ・グリュンワルド・ギムザ法で染色後、オリンパス顕微鏡で行った。血清フェリチン濃度は酵素抗体法で測定した。これらのパラメータの正常範囲はウイントローブの教科書を参考にして定めた。
5) データの品質管理と統計解析
病歴を含む種々の項目についての面接調査、体内放射線量測定、甲状腺画像診断および血液検査などの結果が検診データとして入力されるが、それぞれの段階で間違いや偏りの生じる可能性がある。そこで、面接者の違いによる回答の変動を最小限にするため、本人や親に理解しやすい質問表を作成した。さらに、質問表の様式は、回答のコード化が不要で容易にデータが入力できるようにした。検査結果は質問表と類似の様式の用紙に記録した。