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はじめに

 

今から5、6年前、医療系学生の間で国際保健ブームが到来し、そのブームはさらに大きなものとなり現在に至っています。今では多くの学生が海外研修プログラムへ参加し、海外の保健医療現場を訪れ、学会・勉強会・イベントへ参加しています。本フェローシップは今年で5回目を迎えますが、年々、参加希望者は増えつづけており、14名の募集枠に今年度は70名以上の応募があったと聞いています。

国際保健ブーム到来後、しばらくは国際保健へのアプローチは非常に困難でありました。地方在住の学生は有益な情報を得るために国際保健に関係する先生方を全国津々浦々訪ね歩いたり、東京に足を運ぶ必要がありました。研修参加、海外医療現場訪問、学会・勉強会参加のいずれをとっても大変な困難を伴いました。その困難を乗り越えた暁には同じような苦労した仲間に出会うことができ、有り余る「情熱」を持つ学生に期待を寄せる多くの先生方の姿がありました。学生は『情熱』しか持ち合わせていなくともそれだけで十分でした。「知識」が無くとも許されました。

ここ数年間で、「国際保健」をめぐる環境は著しく改善されました。国際保健に関わる諸先生方、諸先輩の努力の賜物です。「国際保健」が授業で取り上げられる機会は増えました。国際保健に関する良質の書籍・論文を簡単に図書館・本屋で手に取ることが出来るようになりました。また、全国規模の学生団体は情報の共有化、学術への挑戦を目指し活発に活動を展開しています。また、情報ネットワークの発達は地域・国境の壁を超えて情報交換を可能としました。今では「インターネット検索」、「文献検索ソフト」で「国際保健」と打ちこみさえすれば、十分な量の情報に接することが出来ます。つまり、有り余る『情熱』が無くとも、容易に次々とステップを登ることが出来るのです。

しかし、先生方、学生の一部からは、未だに「『情熱』しか持っていない学生たち」に対する苛立ちの声が聞かれます。基本的な医学・保健知識もなく、海外の医療現場にノコノコとやってくる学生。十分な考察がなされていない自己満足の塊レポート。努力もせずに「情報がない」、「仲間がいない」、「文献がない」と騒ぐ学生たち。社会人に比べ学生が未熟、無知であることは当たり前のことですが、それでも学生なりの努力の跡が見られないことへの苛立ちがそこにはあります。今後、国際保健の分野では学生にも「『情熱』+α」が求められる時代が到来すると思います。

 

本書は1999年3月に行われた医療系学生による国際保健協力フィールドワークの報告書です。フィールドワーク参加者、一人一人が「『情熱』+α」への挑戦を模索した集大成です。観察眼の鈍さ、知恵の浅さ、知識の不足、考察の甘さなど、「未熟さ」が露呈しています。しかし、現時点の私達のベストであるという点において恥ずべきことではないと考えます。「未熟さ」の中から『情熱』が生み出した萌芽を見出していただければ光栄です。

今回の研修は多くの方々の御協力により成立しました。国立療養所多磨全生園、世界保健機関(WHO)、フィリピン政府保健省(DOH)、国際協力事業団(JICA)、NGOのスタッフの方々は私達のために貴重な時間を割いて下さいました。フィリピンの農村、スラムの方々は私達のために楽しい空間を作って下さいました。同行して頂きました国際医療センター国際医療協力局計画課の金井要先生からは適時、的確なアドバイスを下さいました。

その他お世話になりました多くの方々に対し心よりの御礼を申し上げます。

 

第5回国際保健協力フィールドワークフェローシップ

チームリーダー 九州大学医学部 長谷川 学

 

 

 

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