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調査結果:

有志で参加した1998年に東ミンドロ州ヴィクトリア町ドンガン地区ドンガン小学校、同ポブラシオン III地区マラヤス III小学校、南アグサン州プロスペリダド町パティンアイ小学校、北スリガオ州アレグリア村アリパオ小学校において今回とほぼ同じ調査を実施している。今回の調査も1998年の調査と強く関連しているのでここではその結果を交えて話を進める。まず、これらの調査結果として1998年に調査を実施した4小学校の内、南アグサン州パティン・アイ小学校において4例、北スリガオ州アリパオ小学校において1例と1999年に調査した2小学校の内、南アグサン州フバン小学校において6例、合計11例の超音波診断上のネットワーク・パターン像を示す小学生が確認された(表22)。また、東ミンドロ州の感染地内にある3小学校ではネットワーク・パターン像を確認できる症例は全くなかった。開発途上国の農業従事者を中心とする地域において、特に小児の正確な年齢をデータとして得ることはそれほど容易なことではない。今回はその小学生の担任より年齢を聞きだした後に、誕生年月日で再確認しながら年齢を確認した。その結果、超音波診断上のネットワーク・パターン像を示す小学生の最低年齢は9歳であった。また、14歳の小学5年生にもネットワーク・パターン像を確認した。

小学生児童におけるネットワークパターンを示した11例と、ミンドロ島カラパン市内の小学生(対照者11名)における各種肝機能検査値の比較を表23及び図6に示した。

対照と比べ、ZTT, AL-P及びA/G比に顕著な差異が認められた。すなわち、肝実質細胞の反応がみられ、肝内の胆管が圧迫或いは閉塞が起こり、胆汁のうっ滞などの結果、肝の萎縮等の肝障害が発現されていることが推測された。今後、治療後にどの様な変化が起こるものか興味のもたれるところである。

 

考察と展望

今回の調査で日本住血吸虫症患者に特有な超音波検査上のネットワーク・パターン像が9歳という低年齢層に観察されたことは特記すべきことである。日本国内において腹部超音波診断が日本住血吸虫症患者に実施されたのは1980年代以降で、この時既に国内における日本住血吸虫感染による新患の報告は全くない。従って国内における超音波検査上のネットワーク・パターン像の報告は既に治療後で再感染の可能性の無い成人例のみであったと言える。従来の日本と中国での報告ではネットワーク・パターン像が出現するのは初感染後15〜20年を経てのことである。従ってネットワーク・パターン像の出現は成人例においてのみの報告であった。またこのためにネットワーク・パターン像は日本住血吸虫症においてかなり進行した病態と捕らえられてきた。その後の各国での日本住血吸虫症に対する腹部超音波検査に関して言えば、小児を調査対照の中心とした腹部超音波検査はほとんど実施されなかった。今回、かなり濃厚な感染地であろうと思われるミンダナオ島にて11例もの小児が確認されたのは、濃厚な感染もしくは特殊な環境下ではかなり急速な肝繊維化が起こり得ると予想できる。また、今回9歳と言う低年齢者にネットワーク・パターン像が観察されたにもかかわらず、現地の南アグサン州の住血吸虫症対策チームの調査では今回の被験者から10年経過した世代である20歳前後の青年に臨床的あるいは肉眼的な腹水貯留者がいないのは超音波検査上のネットワーク・パターン像が出現してから肝硬変に行き着くまでにはかなりの長期間が必要とされるのだろうと予想できる。もちろんこれらの調査地において近年急速に感染状況が悪化しているという事実があるならば当然、このような結果も起こり得るのだが過去のデータは感染状況の改善を示しているし、これに対して現地の南アグサン州の住血吸虫症対策チームだけでなくおおかたの専門家にも異なる意見は無かった。

 

 

 

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