a) 五反沢
丘陵の北側に面した谷戸で、下流域にはかつて五反程の水田が拓かれていたが、現在は一部で湿地植生がみられるものの、イネ科植物を主体とした草本群落を形成している。
中流域から上流域にいたる樹林帯で3本のベルト(G1区〜G3区)を設定して調査を実施した。
◇G1区(図I-1-4:植生断面図/表I-1-6:林床・湿地群落組成)
五反沢本流の上流部にあたる。右岸では高木層にコナラ、亜高木層にエゴノキやリョウブ、さらに低木層にはヒサカキが優占し、発達した階層構造がみられる。水路をはさんだ左岸でも高木層にコナラ、低木層にヒサカキが優占する林分が広がっている。林床群落の組成は、どちらの斜面でもヒサカキがひじょうに高いSDR値を示し、ほかにヒノキやスギの稚樹、オトコヨウゾメ等の木本類が目立って出現している。
一方、谷底部はケチヂミザサとドクダミが優占する草本群落となっており、谷戸特有の湿潤な群落構成とはやや異なった様相をみせている。
◇G2区(図I-1-5:植生断面図/表I-1-7:林床・湿地群落組成)
中流域にあたる。右岸は高木層にコナラ、亜高木層にエゴノキ、アオハダ、低木層にヒサカキやイヌシデを優占種とする林分がみられるが、左岸はヒノキ植林となっている。林床群落の組成は、右岸斜面でチゴユリが目立つほか、谷底部の水路周辺ではヤマツツジがSDR93.8という高い値を示している。また、ヒノキ植林の林床ではヒサカキのほかにゼンマイやハリガネワラビ等のシダ植物が目立って出現しているのが大きな特徴である。
◇G3区(図I-1-6:植生断面図/表I-1-8:林床・湿地群落組成)
下流部に設けた調査区である。斜面はコナラの優占する林で右岸上部の亜高木層ではミズキの優占がみられるものの、全体的に階層構造はあまり発達していない。林床群落の組成は右岸と谷底部で多様度指数0.87および0.86を示し、総出現種数も五反沢の調査区のなかでは最も多い96種が記録された。
なお、左岸斜面ではアズマネザサがSDR96.9を示し優占しているが、多様度指数(0.83)も比較的高い。