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3 地域通貨の持つ意味

 

日本には、昔から頼母子講や無尽などがあり、掛け金を持ち寄って融通しあっていた。かつては物々交換が行われ、結(ユイ)という相互扶助組織もあった。地域通貨は、地域で育ってきたこうした助け合いの仕組みを、地域貨幣という新たな媒体によって復活させたともいえる。

日銀が発行する円は、物やサービスの経済価値を媒介として流通している。地域通貨は、福祉や環境、文化活動など経済価値をはかりにくい多様な価値を評価することにひとつの意義がある。交換価値を当事者同士の話し合いで決定する場合はなおさらである。

地方分権時代の地域づくりは、市民が中心となって将来を考え、行動することが基本である。地域通貨は、その発行や、券のやり取りを通じて多くの市民がかかわる。市民参加やボランティア活動の輪を広げる糸口にできる。

結果として、コミュニティの円滑な発展に貢献する側面も持っている。都市生活では、近隣の付き合いが薄くなりがちである。定年退職者や子育ての終わった女性などが、サービスの提供を通じて、地域に貢献する道を開くことにもなる。その結果、世代間や地域内の人々の交流が活発になる。各地の多様な文化を育てることもできる。貯蓄した地域通貨は寄付することもできる。思いやりの気持ちがあふれたまちを築くきっかけにもなるだろう。

地域通貨は、地域内だけで取引可能な財やサービスは、なるたけ地域内で生産、消費、廃棄させようとする考えである。一定の区域だけで循環するから、地域経済の振興にも寄与する。

参加者は、手元に資金がなくても必要なサービスの提供を受けることができる。すなわち、市場経済を補完する役割も担っている。運営次第では市民活動や起業を資金面で支えることもできる。例えば、製造業のベンチャーに注文が入った場合、運転資金がなければ金融機関からの融資を受けるのが普通である。もし、原材料の会社が地域通貨のグループに参加していれば、地域通貨によって決済できるから、その分、資金を準備しなくてすむ。

地域通貨は決済機能だけを担う。一般の通貨のように、価値以上の信用創造は起こらないから、バブルやインフレの心配はまずない。

 

4 日英米の比較

 

日本、英国、米国などの地域通貨には、地域ごとに多様なタイプがある。ここでは、英国に多いLETS(Local Exchange and Trading System、地域交換交易制度)、米国に多いタイムドルと、日本のエコマネー4)とを取り上げ、日英米の比較を試みる。

LETSは1983年にカナダのバンクーバー島で始まった。1990年代に豪州や英国などに広がり、現在はこれらの国のほか、米国やニュージーランドなどでも普及している。英国には、270のLETSがあり、約2万人が参加している5)

米国のタイムドルは、その地域だけでなく同様の仕組みがある他の地域でも通用し、汎用性がある。LETS同様、失業者などに有用な制度である。

 

図表1 地域通貨の日英米比較

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それぞれの相違点を示すと図表1のようになる。まず、通貨の性格が異なる。LETSは、もちろん正式の通貨ではないにせよ、地域限定の通貨といった色彩が濃い。それは、「(将来は)自治体に(本物の)地域貨幣の発行を許可すべき」(ジェイムズ・ロバートソン)6)といった議論が出ていることからも明らかである。

これに対し、日本の地域通貨は善意や思いやりを大切にし、市民同士の助け合いの性格が強い。

 

 

 

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