日本財団 図書館


003-1.jpg

 

地域通貨とコミュニティ

 

井上 繁(日本経済新聞社論説委員)

 

1 はじめに

 

地域通貨は、地域社会内で財やサービスを交換する仕組みであり、結果としてコミュニティ活動を支援する役割を果たす。日銀券のような通貨と違い、地域で生活している人を基盤とするNPO(非営利組織)などが自ら発行する。里山の草刈りをしたらいくら、介護を手伝ったらこれだけといった具合に、ボランティア活動などの見返りに受け取る。それは、地域への貢献のあかしである。受け取ったものは自分が人にサービスを頼むときに使える。無償奉仕と有償ボランティアの中間の位置づけである。

対象となる活動は、介護、福祉、環境、自然保護、動物保護、災害時の救援、教育、商店街振興、地域文化活動などコミュニティの振興に関わることなら何でもいい。

地域通貨は、通貨ではないが、通貨と同じように交換できる。ただ、現金に換えることはできない。利子はつかないものの、貯蓄ができる。中央銀行の発行する通貨は幅広く流通するのに対し、地域通貨の流通の範囲は一定の地域社会に限っている点に特徴がある。

相互扶助システムとしての地域通貨は、高齢社会における助け合いや地域環境の保持などコミュニティ活性化の起爆剤になりうる要素を秘めている。本稿では、その持つ意味などを考察するとともに、これを普及、定着させる条件を探った。

 

2 日本の現状

 

日本ではこれをエコマネーと呼ぶことが多い。エコロジー(環境)、エコノミー(経済)、コミュニティ(地域)、マネー(通貨)の4つの意味を込めた名前である。国内では、研究中のところも含め30ヵ所ほどで動き出している。

日本型地域通貨の一種として、ボランティア活動の時間預託制度などがある1)が、ここでは考察の対象から省いた2)

地域通貨は、その誕生のいきさつから、市民主導型と行政主導型に分かれる。草津市や松江市、千葉市などでの取り組みは市民主導型、北海道栗山町は行政主導型である。草津市の場合、事業主体は草津コミュニティ支援センター事務局である。センターは、草津市を中心としたNPOやまちづくり団体を支援するために1998年に設立した。各団体に所属する会員間の交流を深めるのが地域通貨発行の動機である。千葉市は、NPOの「千葉まちづくりサポートセンター」が運営している。松江市の場合は、参加するには、「まつえ・まちづくり塾」の塾生になる必要がある。ダガーは、塾生の間だけで流通させているからである。

2000年2月から試験導入した北海道栗山町では、役場の職員が中心となった研究会が仕組みを整え、参加者に原資として一世帯当たり二万クリンを配った。ただ、栗山町の場合も、民間団体の運営という形にはしている。

取引のやり方は、クーポン券を発行するのが普通である。「地域通貨」の単位は、それぞれ地域性を反映している3)。「おうみ」は1おうみ、5おうみ、10おうみの3種類がある。市内の名所をデザインしてある。クーポンを使わずパソコンで電子決済もできる。千葉市の「ピー」はピーナツの図柄である。各自の口座を用意し、それに記録していく方法もある。

取り引きを活発にするには、会員間の情報交換を円滑に進めなければならない。「おうみ」の場合は、参加者の提供できることや、ニーズについて冊子にまとめ、配付した。北海道栗山町では、サービス内容と参考価格を示したメニュー表を配付している。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION