テレフォンカードの一辺にある窪みによってカードの方向性がわかるし、シャンプーとリンスの容器も突起によって区別できるようになっているが、あの工夫は多くの者にとっても便利。障害者にやさしい商品は、障害のない人にとってもやさしいということ、まさにユニバーサルなことがこれからの社会に重要である。
4 デザイン開発は、ユーザーの意見・意志を反映させて(酒井正幸)
ユニバーサルデザインの立場からの標準化推進の活動と、製品開発プロセスヘのユニバーサルデザインの視点の導入について解説する。
標準化(規格化)には、ISOやJISなど社会で認定された規格とディファクトスタンダードといわれる業界の標準規格がある。家電製品協会では、
・各社の製品の機能や操作方法を共通化させユーザーの混乱を防ぐという製品の仕様に関する標準化
・開発の思想、指針を定めること
の二つの視点でユニバーサルデザインの標準化活動を行っている。
協会では99年3月に凸記号(テンキーの中央にある5のボタンについている直径1ミリ程度の突起)についてのガイドラインを定めた。この突起は視覚障害者がテンキーを利用するときの認識基準点となっている。
開発指針についても同時期に「高齢者・障害者にも使いやすい家電製品開発指針」を定めた。その中で、ユニバーサルデザインを、デザインや設計だけでなく、宣伝、販売、アフターサービスから廃棄に至るまで全体への配慮と位置づけている。また、開発過程でのユーザー評価、複合表示、平易な用語の使用等を定めている。製品開発へのユニバーサルデザインの導入については、開発者自身の意識改革や創造性を培い、ユーザーと開発担当者のギャップを埋めるため「ユーザー参加型製品開発プロセス」をまとめ、「ユーザビリティ・テスト」の導入を推進している。
家電製品の共用品(=ユニバーサルデザイン製品)の出荷額が3,491億円、家電製品全体の13.7%に相当(98年度通産省調査)するが、ユニバーサルデザインの目的は、だれもが使えるものの開発であり、その目標達成にはまだまだ努力と工夫が必要だ。家電製品業界の課題は、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)に代わる音なども考慮した新しいインターフェースの開発と早期標準化である。
このあとのフリーディスカッションでは、
・まちづくりの行政主体はまずは市町村にあり、施策のパーツを適合するように組み合わせるという意味で、市町村はデザイナーである。その展開にはNPOの関与の必要性が高まる。工夫や改善を実現していく手段としてユニバーサルデザインという言葉が後押しの役割を果たす。(中村)
・デザイナーは、自分を絶対視せず、ユーザーと対話すべきである。対話から出てくるデザインが、結果としてユニバーサルデザインとなり、責任あるデザインになる。ユーザーがデザイナーを助ける。(ハナ)
・デザイナーは考え方を形に表わしてライフスタイルを変える力をもっている。視点の大変革が求められる今日、行政や経営にもデザインの考え方を取り入れる必要があるし、デザイナーの活躍に期待が寄せられる。ゆえにデザイナーはその期待に応える努力が必要だ。(今竹)
・要素技術を融合させて新しい価値を産み出すのがデザイナーの仕事である。ユニバーサルデザインやエコロジカルデザインにより、デザインはあるべき姿に向かっている。企業もその方向にシフトしつつある。(酒井)
・選択は消費者の役割。消費は商品への投票と考え、消費者はユニバーサルデザインに熱心な会社の商品を買おう。消費者のフットワークの良さが社会の質の潮流をつくる。(早瀬)
・ユーザーテストによる製品評価で「このデザインが悪い」と言えば、消費者(ユーザー)と作り手のコミュニケーションがよくなり、新しいものを作り出すきっかけができる。(酒井)
・人のプライドと向上心に焦点を当て、夢をかなえるような製品やサービスを開発することが重要である。(今竹)
・ユニバーサルデザインの目標は、多様性、文化の違いなどをすべて織り込むことだ。デザイナーの役割は、すべてを考えた上でユニバーサルな考え方やアクセスをどのように実現するかということだ。(ハナ)
といったことが論じられた。
(文責:大阪府立産業デザイン研究センター 杉本清)