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成熟社会とコミュニティ活動

菊池美代志(帝京大学教授)

 

コミュニティの成長と成熟

 

わが国でコミュニティづくりの活動が始まってから、ほぼ30年になる。この間にわが国は、成長社会から成熟社会に入ったといわれる。それでは成熟社会のなかのコミュニティとは、どのような姿をしているのだろうか。これを知るための早道は、「先進的」な実践活動を展開しているコミュニティを調査することである。そしてそこからさまざまな示唆を引き出すことであろう。

いまから6年ほど前に、日本の各地ですぐれた実績をあげたコミュニティ地域を選定して実態調査を行った。さまざまな方法ですぐれたコミュニティづくりを行っている団体を抽出し、そこのリーダーにアンケートを郵送し活動状況をきいたところ、わが国屈指の地域である真野や塙山などをはじめとして293組織から回答を得ることができた。回答を寄せたのは各地の自治会、学区・住区協議会、有志組織などである。

これらの組織が実践している活動を検討してみると三種類のものがあり、どこの組織でもそれらをまんべんなく実施しているところからコミュニティの「三大活動」とよぶことにした。すなわち、地域の諸問題を解決するための「問題対処活動」、人々の交流と連帯をうながす「親睦活動」、地域の施設や環境を維持し管理する「施設管理活動」の三種類である。さらにこれらの活動を住民が主体的に行っていることに注目して、四種類目に「自治活動」を追加した。

この四つの活動の量的拡大化をコミュニティの「成長」、地域への定着化を「成熟」とよぶことができる。そしてわが国のコミュニティ活動は、前者から後者の段階へと移行しつつあると考えられるところから、この成長と成熟に関して気のついたことをいくつか述べたい。

 

コミュニティの三大活動

 

問題対処活動としては、防災、防火、犯罪・非行防止、交通安全、資源再利用、福祉、文化保存、生活改善などの活動があげられる。なかでも最近注目されているのは防災の活動である。今から五年前におこった阪神・淡路大地震の災害への対処にあたって、コミュニティの連帯が重要な働きをしたからである。各地で火災が発生したが、その多くは近隣の人々の初期消火によって鎮火できた。また家屋が倒壊しその下から沢山の人々が救助されたが、生存者のほとんどが24時間以内に助けだされたもので、しかもその救出は隣人によるものであった。震災後の調査で明らかにされたところによれば、災害当初の消火や救命だけでなく、その後の避難所での生活への対処、さらに地域の復興事業の進展においても自治会のようなコミュニティ組織が重要な役割をはたした。

親睦活動としては、祭礼、盆踊り、体育祭、文化祭、新年会、旅行、のど自慢カラオケ大会などがある。地域の連帯はまず親睦と交流からはじまるということで、各種のレクリエーション行事が行われてきた。こうした親睦活動をとおして人々がよく知り合い親しく交わることは、都市生活においてとくに重要である。今日、都市化のなかで人間関係が希薄になりつつあるが、あたたかい近隣関係は孤独を癒す場となる。また吉事や凶事に際して喜びや悲しみをともにしてくれる人が身近にいると、生きていくための心の支えとなる。さらに毎日の生活のなかで突然なにか困ったことがおこったとき、物・金・労力・助言などの支援が隣人から即座に得られると非常に助かることがある。最後にレクリエーション行事に参加することで、毎日楽しく生きがいをもって生活できることなども指摘できる。こうした心とモノの豊かさの実現のために親睦活動が行なわれてきた。

 

 

 

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