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給付実績に応じて支払われる多額の補助金は、保険者の経営努力を阻害するからである。ドイツのリスク構造調整のように、標準的なサービス水準を財政調整の対象とする制度に移行することが長期的には望ましい。介護は医療で多くみられるように出来高払いではなく、定額方式であるとはいえ、中長期的に保険料の高騰を抑える必要がある。

第2に、第2号被保険者の保険料は老人保健の財政調整法と同じ方法で各市町村に配分される。つまり、高齢化率に基づく明示的な財政調整は給付総額の33%である。

第3に、国庫負担金のうち5%が第1号被保険者の負担能力の小さな市町村にたいして手厚く交付される。つまりこの5%の国庫負担金は市町村の経営努力以外にかかわる部分である。これは、公的支援の支出誘発的な補助金を負坦の公平の視点から補完するものである。

また、制度案では、第1号被保険者の負担能力を、住民税非課税か否か、老齢福祉年金受給等で判断する。これにかんしては、上限つきで保険料を年金受給額に比例させる(あるいは上眼つきの累進保険料率)方が望ましい。というのは、高齢者のフローの収入の大半が年金であること、年金に比例させる方が事務コストも安くすむからである。無年金者については他の所得を調べた上で、基本的に基準額の保険料を納めることとしたい。

第4に、第2号被保険者については、基礎年金や老人医療と同じで、被扶養者の保険料は、当該医療保険の被保険者が肩代わりしており、年金の第3号被保険者問題と同じ問題をクリアできていない。なお、第1号被保険者は、被保険者各自が保険料を納付することになっている。第1号被保険者と第2号被保険者の取り扱いはこの点で整合性がない。

第5に、第2号被保険者の保険料のち国民健康保険からの拠出金には半額、国庫負担が入る。国民健康保険には事業主負担がないためとされている。しかし、山ウ[1996]もいうように、国民年金にも事業主負担としての国庫負担がないのに、国民健康保険だけに国庫負担をつける根拠は乏しい。「介護保険は国民健康保険の二の舞いになるのではないか」という市町村の不安や不満を緩和するためとしか思えない。

第6に、老人医療から老人介護にシフトするための財政的誘因は、医療施設から福祉施設へシフトしたときに、市町村の負担が軽くなることである。現行の制度では、老人保健法と老人福祉では公費負担割合に差があるために、病院から福祉施設に老人を移しても市町村の負担が重くなる場合がみられた(木村[1993]を参照のこと)。介護保険制度案では、老人病院等にも介護保険を適用させるこのことは短期的には社会的入院の温存につながる反面、中長期的には市町村が社会的入院をなくす努力をすることによって保険給付費を抑制することにつながることになる可能性がある。

 

V 結び

本稿では、ドイツ疾病保険の財政調整の仕組みおよび財政調整の経営努力にかんする効果を考察し、その上にたってわが国の公的介護保険制度案の財政調整を評価した。ドイツの疾病保険の財政調整は、1978年から1994年まで実施された年金受給者の医療費にかんする事後的な財政調整と1995年からはじまったリスク構造調整という事前的な財政調整の2つである。

 

 

 

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