例えば、食事サービスは、予防的観点からも、虚弱高齢者にとってきわて重要なサービスであるが、一般人の生活費と同様の性格があり、制度的にも介護保険の給付に含められていない。介護保険制度がカバーしていない社会的サービスは、やはり市町村の事業とて残らざるを得ないし、拡大していくべきものも多い。
しかしながら、今日地方財政は逼迫しており、市町村の一般財源による付加部分は従来の事業を見直し、スクラップ・アンド・ビルドによってのみ達成できるものといえる。たとえ思い切った事業整理を行ったとしても、その財政力以上に膨らませることはできず、地域のボランティア活動や、住民の互助活動の有効活用、さらに自己調達が充分可能な住民については、自助努力に任せるといった視点が不可欠となるだろう。
(2) 地域のマーケット・マネジメント
厳しい財政環境の下で保険財源を健全に維持し、質が高くきめ細かなサービスの調達を市町村が進めていくためには、厳密なコスト管理も必要である。如何にしてサービスの質と量を調和させ、費用対効果を高めるか、行政手腕が試されるが、その場合の前提条件は、民間セクターの介護サービス市場への大量の参入による豊かな市場形成にある。
その上で、コミュニティケアの主体として市町村は、サービス提供主体の多元化に伴い発生する錯綜したサービスを利用者の立場からネットワークに組織していくことが期待される。これはサービスの量と多元的な供給主体を増やすことで、ある一定の市場を確保し、利用者の選択性を高め効率性の向上につなげようとする狙いがある。いわば市町村のマーケット・マネジメント能力の発揮が期待されるのである。
そのためには、行政、社会福祉協議会、第三セクター、社会福祉法人等の公的・準公的団体、営利団体、NPO、ボランティアの間で役割分担を明確化しなければならない。民間セクターは、経営を維持するためには不採算部門には基本的に参入せず、とりわけ営利団体は、収益部門への参入に集中する。したがって、行政と準行政機関である社協や第三セクターは不採算部門を引き受けざるを得ないし、NPOやボランティアを支援していくことが必要になってくるだろう。
(3) 住民参加の充実
地方分権や介護保険制度は、これまで以上に住民の参加を必要とする。それゆえ、市町村は住民参加制度を整備し、その推進を図ることが求められる。市町村老人保健福祉計画の策定においては住民参加が推奨され、介護保険事業計画においても、住民参加によって進めることになっている。
しかし、国の指導を待つまでもなく、上述の総合的な地域福祉システムを円滑に運営していくためには、住民参加が不可欠なのである。
例えば、介護保険制度において65歳以上の第一号被保険者の保険料は、そのサービス水準に基づいて市町村が算定することになっているが、介護サービスの水準をどの程度に置くか、それは住民自身が決めることである。また、市町村による付加サービスをどの程度にするか、この点もやはり住民意思に基づいて決められるべきことである。