イ 介護保険によるサービスの供給構造
一方、介護保険制度の基本的な構図として、介護サービス希望者は、市町村に申請し、市町村長が設置する専門家による介護認定機関で介護保険によるサービスの認定を受ける。認定は、「介護・介助の必要なし」を意味する「自立」の判定を除けば6段階に分かれており、それぞれの段階に応じてサービス給付量(金額で換算)に一定の上限枠が設けられている。次に、要介護度に基づいて、ケアプランが基本的には介護支援専門員(ケアマネージャー)によって作成され、これをもとに利用者が複数の事業者の中から自由に事業者を選び、契約を結んでサービスを受けることになる。
在宅サービスが多種類に及ぶ場合には、それぞれ異なる事業者と複数契約を結ぶことができ、また保険の適用範囲を超えたサービスについては、保険サービスに連結して購入することも可能である。さらに、医療保険では禁止されている保険サービスと私費サービスとの併用が認められている点も新制度の特徴である。
このように、契約制度では、以前にも増して心身状態という医学的要件に基づく資格要件が客観的となることや、自己選択の拡大などが長所としてあげられている。逆に、利用者は通常の消費者と同様に自己責任が発生する。この長所の部分を確保していくためには、十分なサービス給付量の用意と、通常の商品以上に利用者保護の視点が不可欠であることに加え、事業者による利用者の囲い込みによる過剰給付や違法行為の発生を押さえなければならない。
また、介護保険制度では、従来の公的セクター(行政及び社会福祉法人等)に加え、営利・非営利の私的事業者及び医療機関に対してもサービス供給者になる道が拓かれている。そのため、これまでの社会福祉法人を中心としたサービス供給から多元的主体のサービス供給へと変化することが予想される。しかし、この制度によるサービスは、それぞれの要介護状態に対する必要最小限の保障であり、いわゆるナショナル・スタンダードである。社会福祉サービスに対する満足度は、医療サービスよりも個人の生活環境やライフスタイル、嗜好に左右される。そのため、ナショナル・スタンダードだけで個人のニーズを充足することは不可能に近く、利用者が住む地域や個人で充足せざるを得ない。したがって、ナショナル・スタンダードに加え、それぞれの地域特性や住民ニーズに応じて、市町村が「上乗せ」、「横出し」あるいは「単独」事業として付加するサービス、そして利用者個人や地域の自助努力で賄うサービスを組み合わせ、可能な限り住民本位の総合サービスを形成していくことが重要となるだろう。
2 社会福祉サービスの多様化と最適化
以上のように、社会福祉サービスの基本原理とそれに伴う供給構造の転換に従い、自治体は新たな行政の行動規範の受容と付加的なサービスの展開において、サービスの多様化を前提とし、住民の生活原理に基づく効率的な地域経営を求められることになるだろう。
効率的な地域経営を実現していくためには、第1に、行政の内部的効率性を高めることがまずもって必要である。例えば、東京都市町村自治調査会の調査によれば、毎年3%のコスト上昇と厚生省が介護保険費用の積算に用いたサービス単価を前提に、都内のある自治体を推計した結果、1995年度から2010年度にかけての負担は、高齢者数の増加があるとはいえ10.78倍になるとされている。