第1章 健康福祉資源化の背景
1980年代の後半から社会福祉行政の分野は、住民ニーズの多様化や高度化等を背景としてめまぐるしい変貌を遂げてきている。そこで本章では、以下の章に先立って、健康福祉資源化の調査に取り組む上での前提認識を提示する。すなわち、社会福祉分野において、自治体の経営スタイルや政策のあり方に変容を迫る各種制度とそこから必然的に要請される自治体の課題や期待される役割について述べる。
1 社会福祉をめぐる二大潮流
周知のとおり、市町村の社会福祉行政は、社会福祉関係八法等の改正により、生活保護法、身体障害者手帳の発給などの一部を除く社会福祉サービスの措置権限が市町村に移管されたのを皮切りに、その後、市町村老人保健福祉計画の策定が義務づけられるなど、ニーズとサービスとの乖離を解消する手だてが講じられてきた。また、1997年12月には介護保険法が成立し、本年4月からはこれまでの措置制度とはまったく異なるシステムによる高齢者福祉行政が展開される。加えて、高齢者以外の分野においても、措置制度に代わる新しいサービス供給システムヘの改革が着手され始めている。
このように、1990年代以降、地方分権とともに社会福祉の分野において、サービス供給をめぐるシステム改革(あるいは構造改革)という二つのうねりが生じているのである。
(1) 地方分権改革
一つ目の潮流としては地方分権改革があげられる。1995年に地方分権推進法が制定されて以来、その後、地方分権推進委員会による中間報告及び5次にわたる勧告、さらには、それらを受けた政府による地方分権推進計画の決定、そして、いわゆる地方分権一括法案の成立と続く、一連の改革過程を通じて、自治体の権限と自治責任は増大することとなった。
社会福祉及び保健行政の分野では、1980年代より分権化の流れが起こっていた。1986年には「補助金整理・合理化」によって、これらの事務については従前の機関委任事務が廃止され、都道府県(政令指定都市を含む)の団体事務になり、さらに1990年には、都道府県から市町村へと権限移管が進められた。
その意味で、社会福祉関係八法等の改正が意図した一連の分権改革は、十分な内容とまで言わなくとも、社会福祉における国と地方との事務配分や全国基準(ナショナル・スタンダード)のあり方等の明確化と、自治体の自律性を推進させてきたといえるだろう。また、市町村老人保健福祉計画によって、社会福祉サービスの計画的整備が進むことで、住民のニーズとサービスの乖離がわずかながらも縮まってきたことも事実である。
社会福祉サービスは、一般に個別性、地域性が高いという性質を有するが、言うまでもなく国民に等しく保障されるべき権利がそのベースにあり、全国的に達成されるべきナショナル・スタンダードと市町村の裁量に任されるべき基準に分けることができる。自治・分権の観点から見れば、言うまでもなく、今後重要な点は後者であり、ナショナル・スタンダードをベースに、自覚的にいかに社会福祉サービスの個別性や地域特性を考慮しながら総合化し計画的にすすめていくかが重要となる。