第3章 各分野における取組のあり方
1 民生部門における温室効果ガスの排出抑制の取組
調査研究委員会 委員
中上 英俊
(1)わが国のエネルギー消費の動向
我が国の最終エネルギー消費は年々増加傾向にあり、中でも民生部門は運輸部門の自動車と共にその伸びが大きく、最終エネルギー消費に占める割合は拡大している。
他方、地球環境問題への国際的な対応が迫られており、京都会議において我が国は2010年時点で温暖化ガスの排出を1990年比で6%削減することを公約したところである。しかし、その実現には大きな困難が伴うことが予想される。
資源エネルギー庁による1998年度におけるエネルギー需給実績速報によると、98年度の一次エネルギー供給は、対前年度比マイナス2.5%の減少となった。一方、エネルギー起源の二酸化炭素排出量は、対前年度比マイナス3.5%となり昨年度に引き続き減少となった。これは、需要面で景気後退による産業部門におけるエネルギー消費量が対前年度比マイナス3.0%と大幅な落ち込みがあったことに加え、供給面で昨年に引き続き原子力発電の設備利用率(稼働率)の上昇(96年度:80.8%、97年度:81.3%、98年度:84.2%)による電力供給量の増加(対前年度比プラス4.1%)、水力発電による電力供給量の増加(対前年度比プラス2.4%)、電力向けの石油の減少等の要因によるものと考えられている。
部門別エネルギー最終消費の動向では、産業部門が前述の通り景気の停滞等により対前年度比マイナス3%と減少したが、民生部門では対前年度比プラス0.3%となっている。これは、家庭部門は対前年度比マイナス1.9%と減少を示したものの、業務部門が逆に対前年度比プラス3.0%と大きく増加したことによってもたらされている。
上述のように部門別に見ると、増加と減少が混在した動向となっているが、最近2年間の二酸化炭素の減少は景気の落ち込みが大きく作用したものであり、これが産業用のエネルギー需要を押し下げたため、結果として温暖化ガスの減少となって現れたといえよう。したがって、この現象から二酸化炭素の排出抑制が効果的に働いたと判断することは危険である。
ちなみに、1998年度における最終エネルギー消費は1990年度比で12.1%増加しているが、二酸化炭素の増加は5.4%の増加にとどまっている。しかし、積極的な省エネルギーと、脱化石燃料化が進展しなければ、今後の経済環境の変化次第では最終エネルギー消費、二酸化炭素排出量共にこの2倍の水準まで増加することも考えられる。