イ 回帰式全体の説明力
まず推定結果から、ここで提示した実証モデルによって、各自治体の高齢者ケア・サービスの目標値の違いをどの程度説明できるかを、(自由度修正済み)決定係数(Adj.R2)の値によってみてみよう。
4つのケース(表3〜表6)の中では、ショートステイ対象者総人数(高齢者1人当たりの値、RSTAY)に関する決定係数が最も高い値を示している。各自治体のサービス水準の実に70%以上をここでの回帰式によって説明することが可能である。これは、われわれの実証モデルが、この被説明変数については相当程度適合していることを意味している。
残りの3つの被説明変数(RBED、RHOME、RVISIT)を対象とした推定においては、回帰式は各自治体のサービス水準の15〜20%程度を説明できるだけであり、全体的な説明力としてはそれほど高くない。しかしながら、クロスセクション・データの分析であることを考えれば、決定係数の値はこのレベルであっても、一部で有意に表れたパラメータにはそれなりに統計的な意味をもった解釈を加えることができるだろう(11)。
ウ 表3の推定結果
次に、各ケースの推定結果を順次検討していこう。まず表3において、特別養護老人ホームと老人保健施設のベッド数合計(高齢者1人当たりの値、RBED)に関する推定結果をみてみよう。決定係数は0.15前後とそれほど高くはない。有意に得られたパラメータをみていくと、第1に、ニーズ要因である施設入所者の高齢者に占める比率(ROLD1)がプラスの値を示しており、これは予想と整合する結果である。施設入所者数の予想値が高い自治体ほど、より多くのベッド数を目標値にしていることになる。
第2に、人口(POP)がマイナス、面積(AREA)がプラスの値を示している。人口が少なく面積の大きい自治体ほど、高齢者1人当たりのベッド数も多いことになる。
第3に、財政力を示す1人当たり地方税収(PTAX)の効果は一部でマイナスに表れており、財政力が弱い自治体ほどベッド数が多いという関係になっている。この結果は、特別養護老人ホームや老人保健施設等の施設が、一般的に都市部(そこでは1人当たり地方税収も多い)で不足し、郊外や地方の方が整備されているという実態を反映している可能性がある。
第4に、第1次産業就業人口比率(RWORKl)の効果がマイナスに表れており、農村部ほどベッド数は少ない(あるいは少なくてすんでいる)という結果になっている。ただし、これは上述した人口・面積や1人当たり地方税収の効果とは直感的に反する結果にもみえる。