これまでは、結果解析の部分にシミュレーションを適用してきたが、上述したように、衝突、座礁等の事故発生の部分にもシュミレーションを適用することができる。現実の船舶の運航は、多くの船舶よるモンテカルロシミュレーションとみなすことができる。これまでの運航の結果、すなわちモンテカルロシュミレーションの結果として、種々の状況における多数の事故例が積み重ねられ、ある程度信頼性のある事故発生確率を得ることができるようになった。図5に示す構造等のハードウェア、外部影響、さらにヒューマンファクターの妥当なモデル化がなされれば、それらをシミュレーションプログラムに組入れ、評価対象船舶の運航条件のもとで、事故発生まで、事故発生後と分けてモンテカルロシミューションを実施することにより、信頼性の高い事故発生確率、事故シナリオ発生確率を得ることが可能と思われる。この場合の問題点は、シミュレーションの回数であり、現実的な数に絞り込む方法が重要である。その方法については、現在検討中である。このような、シミュレーションを主要なツールとするFSAをSBFSA(Simulatin Based FSA)と呼ぶことにしたい。
しかしながら、シミュレーションによるリスク評価が実用になるまでは、当事者および専門家の判断の活用が不可欠と思われる。リスク評価が実施されていなかった従来の方法でも基準案の審議が実施されていたわけであるから、そうした方法より妥当と思われる専門家の判断によるFSAは実施される可能性が高いと考えられる。もちろん、現在開発されているシミュレーションで専門家の判断を置き換え得る場合は、そのようにすべきと思われる。
5. おわりに
FSAの現状を振り返り、今後のFSA実現のための方法論についての展望を行った。現在、IMOにおいては各国からFSAの試適用結果が出され、それらの妥当性の検討がなされており、英国提案の手法の限界が指摘されつつも、FSAの実施に向けて積極的な取り組みがなされている。船舶技術研究所は、これまで通り、将来型のFSA、すなわち、SBFSAの開発に取り組むとともに、運輸省海上技術安全局安全基準課と共同して、FSAの現実問題への適用方法の開発も同時に実施する予定である。
なお、本研究は(社)日本造船研究協会との共同研究で実施したものであり、RR42部会長の東京大学大和教授はじめ委員の方々、並びに運輸省海上技術安全局安全基準課の方々に厚く感謝する次第である。
(参考文献)
1) INTERIM GUIDELINES FOR THE APPLICATION OF FORMAL SAFETY ASSESSMENT(FSA) TO THE IMO RULE-MAKING PROCESS,MSC/Circ.829,MEPC/Circ.335,1997/11/17
2) United Kingdom: FORMAL SAFETY ASSESSMENT-Trial Application to high speed passenger catamaran vessels Final Report,DE41/INF.7 1997/12/12
3) Norway,ICCL: MATTERS CONCERNING SEARCH AND RESCUE,INCLUDING THOSE RELATED TO THE 1979 SAR CONFERENCE AND THE INTRODUCTION OF THE GMDSS-SOLAS regulation III/28.2: Helicopter Landing Area(HLA) on non-ro-ro passenger ships,COMSAR 3/9/13/Add.1,1997/12/16
4) JAPAN: FORMAL SAFETY ASSESSMENT,MSC70/INF.7,1998/9/11
5) Italy: FOMAL SAFETY ASSESSMENT-Report of the Correespondence Group on trial application of FSA to high-speed craft,MSC71/14,1999/2/19