Fig.6.10(a)は加熱中の状態を示す。図のAの部分は加熱膨張により圧縮応力を受け、温度が上昇すると圧縮応力が弾性限(高温)に達して板厚方向に膨張し、塑性ひずみとなる*6.7。Bの部分は、常に水冷されているので弾性範囲内にあり、Aに対する拘束となる部分で、圧縮塑性変形を受けない。Cの部分は、加熱された深さによっては、弾性限を超えた圧縮応力により塑性ひずみを生じる場合もあるが、通常は弾性範囲内にとどまると考えられる。Fig.6.10(b)は冷却中の状態である。Aの部分は、加熱時に生じた塑性ひずみがそのまま残留し、冷却によって弾性限が上昇しながら収縮するので、周囲を強く引張る。Bの部分は、Aの収縮によって引張応力を受け、中立軸に対するモーメントが形成される。すなわち、板が曲がることとなる。
したがって、板表面をガス・バーナで加熱し、加熱部付近にはビニール製の小径水管などで炎が消えない程度に常に水を注ぐ。そのために、加熱部は急冷され、加熱線と直角方向に板表面を収縮させるので、板に凹状の曲げが起きる。線状加熱は、直線状にガス・バーナでウィービングすることなく加熱して上述のように行う場合と、加熱直後に水冷する場合とがある。
Fig.6.11は、500mm角の5083-O合金3mm板の中央部を線状加熱した場合の曲がりの例である。Fig.6.11(b)は、AA間を370℃まで水冷せずに線状加熱した直後の板の曲がりを示し、加熱線に直角方向は凸状で、かつ、加熱線上も僅かに凸状である。これを放置すると、加熱線に直角方向の凸状は大きくなるが、加熱線上は(それに平行な両端も含め)逆に僅かながら凹状となる。Fig.6.11(c)は、同じ条件で加熱直後に水で冷却した場合を示し、加熱線に直角方向は同様に凸状であるが、加熱線上は僅かながら凹状となる。これは、放置時間の経過につれて残留応力の変化により次に述べるFig.6.11(d)の形状に近づいてくる。Fig.6.11(d)は、水冷しながらの線状加熱であり、加熱線に直角方向は凹状となっているが、加熱線上では僅かながら凸状である。いずれの場合も、試験材が比較的小さいので冷却されやすいことを考慮しなければならないが、これらの例から加熱曲げを理解できるものと考える。
*6.7 この場合の表面の膨らみは、一般には手で触れて辛うじて判別できる程度で、外観的にはほとんど識別できない。