2) 面外のたわみ変形
d. 横曲がり(角変形):溶接線を中心として母材が折れ曲がったようになる変形
e. 縦曲がり: 溶接線方向の湾曲した変形
f. 座屈変形: 薄板の溶接で、圧縮熱応力によって板が座屈を起こし、波打ちを生じる変形。
横曲がり変形は、溶接による温度変化が板厚方向に一様でないため、収縮量が板厚方向で異なることに起因して発生するもので、やせ馬もこの一種である。縦曲がり変形は、溶接継手の位置が部材断面の中立軸に対して対称でない場合に生じやすい。曲がり変形に対する防止策としては、あらかじめ逆ひずみを与えておくのも一手段であるが、前述のように建付け建造のためにそれが難しい。一般的には、しっかりと拘束すること、開先角度やルート間隔を過大にとらず、適正な溶接順序を選び、また、溶接脚長が過大にならないようにすることが大切である。なお、座屈変形は、溶接時の部材の支持条件や溶接順序などによって変わりやすいが、小型の漁船を正置法で建造する場合に、まれに操舵室横の甲板に生じることがある。この場合には、スパンの中央に上甲板ビームを一本取り付けて補強すればよい。
(3) 溶接順序
溶接順序は、原則として鋼構造の場合と同じであるが、溶接ひずみの発生を防ぐために溶接順序を定める必要がある。溶接順序の計画は、次の事項に留意して立てるとよい。
1) 収縮が最も大きいと思われる継手を最初に溶接する。
2) 溶接順序はFig.7.48に示すように、原則として対称的に行い、必要によっては後退法その他を採用する。円周嵌め込み継手等の溶接順序もFig.7.49に示すように同様である。
3) 溶接速度は可能な限り速く、かつ、均一な速度とする。パス回数は少なくし、繰り返し収縮の影響を避ける。
*7.33 アルミニウム合金は、溶接による部材の縮み量が鋼材よりも大きいので、部材を現寸のままでマーキン・組立すると、船体が設計で決められた寸法より小さくできあがる。このため、前もって部材を大きく採取する必要があり、これを伸ばしという。ブロック建造方式では、通常、精度を考慮してブロック端部に伸ばしを入れる。精度を要求される船舶では、伸ばし尺を使うこともある。これは、伸ばしを一個所に集中させないので適正な方法であるが、面倒なために一般的ではない。建付け建造では、部材及び板材の縮み量を予測して伸ばし量を決定し、均等に伸ばしを入れてマーキンを行う“割込み伸ばし”が行われる。この伸ばし量は、溶接条件や組立方法も影響するので一概にいえないが、普通は1.5〜2.5/1,000といわれている。ただし、組立作業で枠組を行う場合には、骨の伸ばし量は異なる9)。
*7.34 ミグ自動溶接を行う場合、溶接開始点(図中のA点)でルート間隔を2mmとする。仮付け溶接なしで溶接すると、溶接の進行につれて両方の板は回転変形をする。その寄ってくる幅αを前もって開いておくと、母材の板耳にたくれが生じない。ただし、このαは、母材の板厚、溶接長、溶接条件、重錘の状態等で変わってくるので、技術的には熟練を要する。押さえなしの場合、αは溶接長1mについて4mmが一つの目安という例5)もある。いずれにしてもαの値を間違えると、板耳の直線度が悪くなる。
なお、たくれとは、板耳に発生する波状の変形を指し、板継ぎ作業で開先の押さえが不十分なときに発生する。板が薄くなるほど、たくれが大きくなりやすい。
下側の図は、板の目違い防止法の一つで、溶接の進行につれて鋼ブロックを順次移動させる9)。