1.1 現尺作画から数値処理へ
ここで造船における現図技術の近年の変化を追跡してみよう。
世界の造船量で、日本が首位に立った60年代、追い抜かれた英国で『女王陛下のためのゲッディス委員会報告』が、これからの造船産業のあり方を検討して出されている。その中で「コンピュータを応用せよ」が提言されていたのを覚えているが、今になって、その炯眼に敬服する。振り返ると、現図技術でも明確な意識ナシに、その路線の上を走っているからだ。
1.1.1 現尺現図の問題点
まずは伝統的な人手による現図技術に限って多面的に考察してみる。現図工程以降にも関連影響があるが、話が拡散するので、本書では触れない。
*幾何精度
寸法や形状の誤差である。
現図床は、おおむね上屋階にあり、鉄骨造の木板張りである。床面は季節や日中の気温変動に応じて伸縮している。
基準になる長い直線は、鋼線を強く張って、その線からの下げ振りにて位置出しするが、作業は面倒で「当り付け」誤差が伴う。直角出しも可能な限りの半径でコンパスを振って求めるが、これまた半径長の引っ張り加減で誤差を生じる。
墨差でバッテンに沿ってなぞる線は、墨差を当てる側に偏りがちである。
このように、位置が振れて床に描いた線には、線自身の太さ=線幅があり、したがって斜めの交線には、交差幅が出てくる。[図1.1.1 線の交線の誤差]に見るハッチング範囲が誤差幅となる。
これらの作画誤差は、作図を読取り、写し、移動する度に重畳してゆく。作図手順のもつ物理的な精度限界である。
コンピュータによる数値現図では、論理的に、線には太さがなく、交点には範囲がなく、誤差は数字の有効桁数処理にて制御可能となる。