第2章 中小造船・舶用工業の現状
2-1 わが国の造船・舶用工業の歴史的視点
造船業の現状を考える時に、昭和31年からの建造量世界一の座を保っている日本の造船業や経済の歴史的視点を再確認することは、今後のビジョンの根幹に影響するものと考えられる。
そこで、本節では、わが国の造船・舶用工業が歩んできた道程を再確認するとともに、マクロ経済的な視点でその歴史を整理した。
2-1-1 わが国の造船・舶用工業の歩み
平成8年度に日本造船学会の100周年のシンポジウムが開催された際、元良・元東大教授が「わが国造船の百年の歩み」というテーマで基調講演を行ったが、その内容は非常に示唆に富むものであった。その内容を概括すると以下のようになる。
わが国は、江戸時代の鎖国の中から立ち上がって明治政府を作り上げ、日清・日露の大戦を勝利し、これを契機に大正の海運と軍艦等の造船技術の大発展時代を経験した。(図2-1-1)
出典:日本造船学会誌
大正時代には、これまでの輸入船に頼る時代から自国で船舶を調達することができるようになった。日本がほとんど被害を受けなかった第一次世界大戦の好景気の反動は大きかったが、この時代に世界に通用する造船技術の萌芽はしっかり根付いた。その後、昭和の造船助成処置は欧米航路の優秀船等の建造に大きな効果を発揮した。しかし、後日優秀船助成処置は結局戦時軍用転換を想定したもので在ったことが判った。
わが国の軍艦・戦艦の優秀性は、第2次世界戦における旧日本軍の艦船の活躍と巨大戦艦武蔵・大和を建造した技術を見れば明らかである。
戦後、一時期造船事業所で農機具や鍋釜を作るという辛酸を嘗めたが、冷戦の中で順次規制は緩和されていった。その後、日本の固定相場制(1ドル=360円)と占領軍の規制緩和、朝鮮動乱の勃発、スエズ動乱などで輸出船が急増し造船ブームへ移行していった。