F. 安全性
試験期間中認められた副作用は両薬剤とも極めて少なく、副作用のために投与を中止したのは、エナラプリル投与群で空咳が発現した1例認のみであった。その他、臨床検査値などに薬剤投与に起因すると考えられる異常値などの出現はなかった。
IV. 考察およびまとめ
今回全国に展開する自治医科大学卒業生を中心とした多施設共同研究によって、へき地の患者における食塩摂取と降圧薬の効果を検討し、Ca拮抗薬アムロジピンとACE阻害薬エナラプリルの降圧効果の違いを明らかにすることができた。両薬ともそれぞれのクラスの中で現在本邦でもっとも良く用いられている薬剤であり、その特色付けの意味は大であるといえる。アムロジピンは従来からCa拮抗薬で報告されているように、食塩の摂取状況にかかわりなく一定の降圧効果をもたらした。エナラプリルも当初の予想ほど食塩摂取状況はその降圧効果に影響を及ぼさなかったが、食塩摂取量が多いと拡張期血圧の低下度がやや少なくなることが示された。高血圧患者における食塩摂取はレニン・アンジオテンシン(RA)系の活性化と深く関連しており、低食塩摂取下ではRA系が賦活化され、高食塩摂取下では逆にRA系は抑制される。ACE阻害薬の投与初期の降圧効果はRA系は賦活化されているほど大であるので、食塩摂取量が多いとエナラプリルの拡張期血圧の降圧効果が減弱するという今回の成績はこれに矛盾しない。
日本人の食塩摂取量は約14g/日とされているが今回の検討では24時間尿中Na排泄量から推定した食塩摂取量や平均9.2gと比較的少なかった。今回は検討しえた症例数が少ないが、へき地においてはこの様な傾向が存在するのかも知れない。また、高血圧を指摘されることで観察期間中の食塩摂取が制限された可能性も当然考えられる。今回の検討では、高齢になるにつれて食塩摂取が少なくなっていた。これも今回検討した症例のみについてであるのか否かは不明であるが、興味ある現象と思われる。
今回は通常の降圧薬の評価法と異なり、降圧効果をそのトラフにおいて検討した。降圧薬の作用持続性の指標の一つであるT/P比(トラフ/ピーク比)は24時間無拘束血圧測定が必要であるが、今回のトラフ血圧の評価は日常診療で可能である。文献上報告されているT/P比を外挿して、症例毎におけるピーク効果の推定もある程度は可能であろう。今回の検討で用いた用量では、アムロジピンの平均血圧の下降は-12.8mmHgであり、エナラプリルの平均血圧は6.6mmHgとその程度はアムロジピンの約半分であった。本邦における臨床試験第3相でのアムロジピン5mgの有効率は約70%、エナラプリル5mgの有効率は55%とされているので、今回の検討でアムロジピンの降圧効果がエナラプリルより大であったのは、従来の成績と一致している。